自転車には野生の香りがある、ふとそう思った。
人間は移動スピードが非常に遅い。おそらく大きさ比でみると、哺乳類の中で最も遅いのではなかろうか。
動物であれ乗り物であれ、人間以外のものは、頭の方向に進む。犬は頭を前にしてその方向に、ペンギンだって水の中では頭の方向に進む。人間より圧倒的に速いスピードで。
そのことは「体の長い方向に、あるいは尖った方向に進む」と言い換えてもよい。槍や弓矢はもちろん、飛行機や船など乗り物もすべて長軸方向に進むのだ。
人間だけである。「頭の方向=長軸方向」から角度にして 90°ずれた方向に進むのは。
人間は二足歩行をするようになり、手を移動以外の目的で使うようになり、長軸方向に進めなくなってしまった。そしてスピードを失った。これは力学的には当然の帰結であろう。
しかし人間は自転車を発明した。自転車は野生の動きそのままに、長軸方向に進む。自転車のおかげで人間は、自分の体の大きさと自分の筋力に見合うスピードを回復した。
自転車の良さは、野性味にある。自転車に乗って、体を前傾してスピードを出すと、ライオンになったような気分になる。
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