2021年3月27日土曜日

不確実性の時代

(慶應大学商学部2020年度入試「論文テスト」より)
以下の文章を読んで、次の問1〜問5に答えなさい。

 不確実性の時代と言われて久しいが、われわれの社会や生活は昔から多くの不確実性に直面してきた。もしわれわれが確実性の下で生活し、将来のことを確実に予測することができるならば、われわれの生活は心配事がなく楽になるだろう。しかし生活があまりにも単純になりすぎ面白みもなくなるかもしれない。現実にはわれわれは、不確実性の下で生活をしているため、多くのリスク(危険)に直面している。すなわち、将来何が起きるかは現在確実に知ることはできない。明日、自動車事故に遭うかもしれない。または火災で自宅を失うかもしれない。不況のために会社が倒産したり、失業するかもしれない。
 われわれが日常生活を送る上で、また企業活動を行う上で、必然的にリスクに直面することになると言ったが、逆に進んでリスクをとろうとする人もいる。その例には、年末などに多くの人が夢を見て購入する宝くじがある。宝くじを購入したとしても、確実にそれが当たるわけではない。たとえば宝くじが一枚100円、100万円の当たり券が一枚だけで、一カ月後100万円が当たる確率は1万分の1という、簡単な宝くじを考えよう。当然、何番の宝くじが当選券かが分からないという不確実性の下で、宝くじを購入しなければならない。彼らは夢を買っていると言われるが、実はリスクを買っているのである。
 このように、不確実性またはリスクとは、現在においては将来のことを( あ )ことに起因している。
 宝くじではお金を出してまでリスクに直面しようとする人がいるのに対して、交通事故や火災などによるリスクを避けようとする人もいる。多くの人は自動車事故や火災によって大きな損害を受けることを避けようとする。リスクに対する態度は人によって異なっている。リスクを購入する人を危険( A )者と呼ぶのに対して、リスクを避けようとする人は危険( B )者と呼ばれているが、それらは次の例で明らかである。
 今、二つの選択肢があるとする。一つは、それを選べば確実に5000円もらえるものである。すなわち、確率1で5000円もらえるものである。もう一つは、サイコロを転がし、偶数が出れば1万円もらえるが、奇数が出ると何ももらえないものである。この時、1万円もらえる確率は2分の1であり、何ももらえない確率も2分の1である。そのため、どちらを選んでももらえる金額の期待値(=「もらえる金額 × 確率」の合計)は(  1  )円となっている。このとき、同じ期待値の金額であっても、確実に5000円もらえる選択肢の方が、1万円になるか0円になるか不確実な選択肢よりも好ましいと思う人は危険( B )的である。逆に、確実に5000円もらえるよりも不確実な選択肢を好むという人は危険( A )的である。また、どちらも同じであると考える人は、危険( C )的である。
 前の宝くじの例をとっても同じように考えることができる。宝くじを100円で買った場合には、当選確率が1万分の1であるため、宝くじの儲けの期待値は( 2 )円となる。また、宝くじを買わない場合は、損得がないため、儲けの期待値は( 3 )円である。したがって危険( B )者は宝くじを購入せず、危険( A )者は宝くじを購入することになる。
 事故や河合において直面するリスクも、宝くじと同じように考えることができる。現在、将来事故に遭うかどうか明確には分からない。不幸にも事故に遭うと100万円の損失を被り、事故に遭わなければ損失はゼロである。そして事故に遭う確率は1万分の1であるのに対して、事故に遭わない確率は1万分の9999であるとする。このときの損失額の期待値は( 4 )円である。ここで簡単な保険の例を考えてみよう。保険料が( 5 )円であり、事故が起きた場合に100万円の補償金を支払う保険を考えてみよう。このとき( 5 )円の保険料で確実にリスクを( B )することができる。保険に加入しない場合の損失の期待値は( 4 )円である。個人にとっての期待値での損失は、保険に加入してもしなくても( 6 )円であるため、危険( B )者は、損失が100万円になるかもしれないケースよりも、確実な( 5 )円の損失のケースを選ぶことになる。危険( B )的な個人は保険に必ず加入しようとする。逆に、危険( A )的な人の場合はこうした保険に加入しないであろう。一方、この保険を提供する保険会社の収益はどうなるであろうか。たとえば、加入者が100万人であったとしよう。保険会社にとっての保険料収入は( 7 )億円となる。そして保険加入者100万人のうち事故に遭う人の割合が、各個人の事故に遭う確率と等しくなると、事故に遭う人の数は平均的に(  8  )人であるため、保険会社が支払う補償金総額は( 9 )億円となる。
 つぎに、事故に遭った場合の損失は前の例と同じように100万円であるとするが、前の例で前提としたタイプの個人に加えて、もう一つのタイプの個人がいるとすると、保険市場はどうなるであろうか。すなわち、第1グループの人たちの事故確率は1万分の1であるが、第2グループの人たちの事故確率は1万分の2であるとする。たとえば、自動車事故であるとすると、第1のグループの人たちの運転は比較的安全であるのに対し、第2のグループはスピードを出しすぎたり危険な運転をする人たちである。第二のグループの人数も、第1のそれと同じく100万人であるとする。このときかいう個人は自分が安全なドライバーか危険なドライバーかを知っている。一方、保険会社は、二つのタイプの事故確率や人数を知っているが、個々の保険加入者が安全な運転をする人か危険な人か、を識別することができない。
 つぎに、事故に遭った場合の損失は前の例と同じように100万円であるとするが、前の例で前提としたタイプの個人に加えて、もう一つのタイプの個人がいるとすると、保険市場はどうなるであろうか。すなわち、第1グループの人たちの事故確率は1万分の1であるが、第2グループの人たちの事故確率は1万分の2であるとする。たとえば、自動車事故であるとすると、第1のグループの人たちの運転は比較的安全であるのに対し、第2のグループはスピードを出しすぎたり危険な運転をする人たちである。第二のグループの人数も、第1のそれと同じく100万人であるとする。このとき各個人は自分が安全なドライバーか危険なドライバーかを知っている。一方、保険会社は、二つのタイプの事故確率や人数を知っているが、個々の保険加入者が安全な運転をする人か危険な人か、を識別することができない。
 保険会社は、ここの保険加入者のリスクを識別できないため、すべての個人を同じように扱おうとする。すなわち保険会社は、加入者全体について各タイプの事故確率と人数を知っているため、全人口の平均的事故確率を計算することができる。そしてすべての個人の事故確率を全人口の平均的事故確率と見なし、すべての個人が同じ事故確率を持っているとした前のケースと同じように、保険会社は保険料を決定することになる。二つのグループそれぞれの事故確率が1万分の1と1万分の2の人が半分ずついるため、保険会社は全人口の平均事故確率を2万分の( 10 )であると推測する。このとき、保険会社が損失補償のために平均的に必要な金額は( 11 )億円である。このとき、保険会社が保険料を( 12 )円に設定すると、すべての人が加入した場合には、保険料収入は( 13 )億円となり、収支が均衡することになる。
 一方、この保険契約は保険加入者にとってはどうであろうか。まず、第2グループにとってはこの契約は魅力的であることがわかる。危険な運転をする人にとっては、事故確率が1万分の2であるため、損失の期待値は( 14 )円となる。したがって保険料が( 12 )円であるときでも、彼らは危険( B )のために保険に加入しようとする。したがって( 12 )円の保険料は彼らにとって( D )となるため、第2グループの人たちはすべてこの保険に加入しようとする。
 しかし、安全な運転をする人は、このような保険契約に満足するだろうか。彼らにとっては事故確率が1万分の1であるため、損失は期待値が( 15 )円となる。それに等しい保険料であれば、第1グループの人たちは、危険を( B )するために保険に加入しようとする。しかし( 12 )円の保険料はそれに比べて( E )になる。そのため第1グループの人々にとっては、( 12 )円を支払って保険に加入しリスクを完全に( B )するよりも、保険に加入せずリスクを被るほうが好ましいかもしれない。もしそうならば第1グループの人々は保険に加入しなくなる。また、同じグループでも個人間で危険( B )度などで違いが存在するならば、第1グループの一部は保険に加入しなくなる。(中略)
 事故確率の異なる、さまざまな人が同じ保険契約に加入するとき、保険料が上昇していくと、安全な運転をする人から順番に保険料を高いとみなし、保険加入を加入をあきらめることになる。その結果、保険に加入し続ける人の平均的リスクが大きくなっていくのである。kのように保険料の上昇と共に、リスクの小さい良質な加入者が保険市場から撤退し、リスクの大きな加入者だけが残る現象は、(a)「逆選択」または「逆淘汰」と呼ばれている。

問1.本文中の空欄( 1 )〜( 22 )に入る適切な数字を答えなさい。

問2.本文中の空欄( A )〜( C )にあてはまる最も適切な語を次の選択肢から選びなさい。なお、同じ選択肢は2回以上使わないこと。
  愛好  安全  回避  関係  困難  状態  対立  中立

問3.本文中の空欄( D )と( E )にあてはまる最も適切な語を次の選択肢から選びなさい。なお、同じ選択肢は2回以上使わないこと。
  確率  公正  設定  中間  飛躍  不安  割高  割安

問4.本文中の空欄( あ )に入る最も適切な語句を15字以内で記入しなさい。

問5.本文中の下線部(a)にある「逆選択」を防ぐためには、保険会社にはどのような情報が必要であるか。本文の論旨にそって、20字以内で記入しなさい。

2021年3月21日日曜日

ベイズ推定(東工大2021年入試・総合型選抜の問題)

 取りうる事象が2種類である試行を独立に n 回行ったときに、一方の事象が何回起こるかの確率分布を二項分布という。二項分布に従う典型的な確率変数としては、コイン投げによって表(もしくは裏)が出る回数が挙げられる。
 このように、我々の生活の中には様々な確率分布が存在する。ただ、残念ながら確率がわかっているという状況は現実では極めて稀なケースであり、現実には確率がわかっておらず、データから分布を推定しなければならないケースがある。
 今、形が歪んでおり、表が出る確率がわからないコインを考える。そのわからない確率をθとおく(ただし 0<θ<1)。コインを投げる回数を n、表が出る回数を k とする。このとき「このコインを使用する」という前提のもとで表が k 回出る条件付き確率は
で表される。ここで、0!=1 , nC0=1 とする。さて、いまθの値がわからないので、限られた回数だけコインを実際に投げて得たデータから確率θを推定したい。以下の問いに答えよ。ただし、各問ごとにコインの歪み具合は異なるとする。

問1 確率θの値を推定する方法の一つに、尤度(ゆうど)関数と呼ばれる概念を使った最尤推定法という方法がある。まず、尤度関数とは、上記の条件付き確率 P をθの関数とみなし、n や k には実際に投げて得たデータの値を代入して評価したものである。いま、ある歪んだコインを3回投げて3回とも表が出た。このときの尤度関数を L(θ) とおくとき、L(θ) を求めよ。

問2 最尤推定法とは、尤度関数が最大値をとるようなθをその推定値とするような推定法である。ある歪んだコインを5回投げたところ、表が出た回数について以下の表のような結果を得た。

     表/裏(コイン1)│ 表 裏
    ──────────┼─────
        回数    │ 4 1

このとき、尤度関数を求めたうえで、上で説明した最尤推定法に従ってθの推定値θ^ を求めよ。

問3 一般に、n 回コインを投げたときに k 回表が出たとする。このとき、最尤推定法を用いて得たθの推定値θ^ は k/n となることを証明せよ。

 次の問4以降は、歪み方の異なる2つのコイン(コイン1とコイン2)を考える。それぞれ表の出る確率がθ1 , θ2 であるが、前問と同様にそれらの値はわからないとする。Aさんがコイン1については20回、コイン2については50回投げたところ、表が出た回数について以下の表のような結果を得た。

     表/裏(コイン1)│ 表 裏
    ──────────┼─────
        回数    │ 11 9

     表/裏(コイン2)│ 表 裏
    ──────────┼─────
        回数    │ 24 26

 次に、別のBさんがAさんから1 , 2いずれかのコインを1つ受け取ったが、見た目が同じなためにどちらのコインを受け取ったかはわからず、したがって当初Bさんは「1/2 の確率でコイン1、1/2 の確率でコイン2」だと考えたとする。また、Bさんは、Aさんがそれぞれのコインを投げて得た上記の結果は知っているとする。
 その後、Bさんが自らそのコインを10回投げたところ、出た回数について以下の表のような結果を得た。

     表/裏(コイン1 or 2) │ 表 裏
    ─────────────┼─────
        回数       │ 5 5

さて、この結果からBさんは受け取ったコインが1か2かをどのように判断するべきだろうか。以下ではこれを考察しよう。

問4 一般的に、X が起こる確率を P(X)、Y が起こる確率を P(Y)、そして X と Y が同時に起こる確率を P(X,Y) とするとき、「X が実現した、という条件の下で Y が実現する確率」は
      P(Y|X)=P(X,Y)÷P(X)
で与えられ、これを Y の X に関する条件付き確率という。P(Y|X) は以下のようにも表現できることを示せ。
      P(Y|X)=P(X|Y)P(Y)÷P(X)
これをベイズの定理という。

問5 Bさんが得た結果「表が5、裏が5」を条件としたときの、Bさんが受けとったコインが1である条件付き確率と2である条件付き確率を比較したとき、もし前者が大きければBさんが受け取ったのはコイン1、後者が大きければコイン2と判断するとしよう。この場合、Bさんのコインは1,2のどちらと判断するのが妥当か、根拠も含めて答えよ。



問1  L(θ)=θ3

問2  L(θ)=5θ4(1ーθ) → L'(θ)=20θ3ー25θ4=0 → θ^=4/5

問3  θk(1ーθ)nーk

問4  P(X,Y)=P(Y|X)P(X)=P(X|Y)P(Y)

問5  

2021年3月14日日曜日

勤務校が記事になってた

○ Yahoo! ニュース2021年3月13日の記事
 「早稲田中学・高校の強み 系列7校で異彩を放つ“一流進学校”」
 (→ https://news.yahoo.co.jp/articles/a2868f06b8de1b091a05460b4408776f36bd0330

○ 元記事は日刊ゲンダイDigital
 (→ https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/286306

 これを見ると、なかなか良い学校のように見える。そのうちに記事が見られなくなるかもしれないので、一部を抜粋しておこう。この部分に関しては私も同意です。

「早稲田中学・高校は進学校としても一流」と話すのは大手学習塾役員だ。 … 受験者や保護者の多くは早稲田大への進学だけを前提としているのではなく、よりさまざまな可能性を秘めている進学校として、同校を認知しているのです」

2021年3月3日水曜日

Incentive

(慶應大学・商学部 2021年入試・小論文より)

 以下の文章を読んで、次の問1〜問4に答えなさい。

 インセンティブとは、ある主体から特定の行動を引き出すためのエサ(あるいは罰則)や、そのエサが与えられる仕組みを指す。個人がある行動をとるためには何らかの理解するためには、各個人が直面するインセンティブの構造を考えなければならない。
 インセンティブが人の行動を決めているということは、裏を返せばインセンティブの構造を変えることで、( ア )ということを示唆している。また、人々の行動が好ましくないものであるならば、それはその人たちに与えられているインセンティブが[ ⓪ ]であることに他ならない。2001年4月から家電リサイクル法が施行され、大型家電製品のリサイクルが義務づけられた。その結果、これらの家電製品を家庭で廃棄する場合でもリサイクルの費用を負担する必要が生じた。その費用を製品の便益を享受した者に負担させるのは理にかなっているのだが、違法投棄のインセンティブを考えると廃棄時にその費用を徴収するのには問題がある。なぜなら、正規に捨てる場合に費用がかかるために、知らぬふりをきめこんで近所のごみ捨て場に捨てたり、夜中に田んぼに投げ込んだりするインセンティブが生じるからだ。毎晩不特定多数の人の行動を監視するのは大変だから、違法投棄をしてもそれが発覚して罰則を受ける可能性は低い。そのため、違法投棄のコストは正式にリサイクル費用を負担するよりも低くなる可能性が高い。問題解決のためには、たとえば発見された違反者には高額の[ ① ]を科すなどして違法投棄のコストを[ ② ]か、あるいは処理費用は廃棄のときではなく新製品の購入時に徴収してしまうことで、廃棄の際にリサイクルするインセンティブを高めなければならない。
 温暖化ガス(二酸化炭素)の削減は、わが国が現在直面する重要な問題の一つである。石油やガスなどの化石燃料を燃やすことで温暖化ガスが生じるわけであるから、わが国の家庭と企業において石油やガス、あるいはそれらを用いて作られる電力の消費を抑えれば、温暖化ガスの排出量は削減される。環境省は、電気や石油を節約しよう、無駄な電気は消しましょう、などのキャンペーンを始めたが、これではたいした効果は期待できない。そのような個人の[ ③ ]や地球愛に訴えるインセンティブがどこまで機能するか、はっきりしないからだ。本気で削減するのならば、化石燃料を減らす金銭的なインセンティブを与えるべきである。石油の消費などに課税する「環境税」はその一例である。
 いくら特定の行動をさせるインセンティブを与えたところで、相手にそれがわからなければ意味がない。したがって、ある行動をとったらどのような利益が与えられるのかを、前もってお互いに約束しあうことが[ ④ ]に重要となる。その約束事のことをインセンティブ契約という。ビジネスの世界で言うと、最近、アメリカ型の成果主義の給与体系を導入するのが流行になっているが、これは仕事の上での成果を出した人により高い給与を支払うことで、成果を出す努力をするインセンティブを与えようとするインセンティブ契約である。ここでのポイントは、インセンティブの構造を変えることだけではなく、成果を出すインセンティブを相手にはっきり[ ⑤ ]させる点にある。一般の労働者の仕事上の成果は昇進のような形で報われるのだから、成果を出すインセンティブは以前からあったはずだ。しかし、漠然とした将来の昇進の可能性から生じるインセンティブの強度ははっきりしない。
 日本経済が脆弱であった時代には、自分の勤める会社の成長存続自体が重大な成果であり報酬であったし、またこの時代には、多くの大企業で管理職のポストに余裕があり、現在の努力が将来の昇進昇給につながるという労働者の期待があった。すなわち、労働者は成果に対する報酬が将来に支払われると期待いていたし、実際そうなることが多かったために、労働者はそういった成果報酬のための努力を惜しまなかった。インセンティブがないにもかかわらず[ ⑥ ]義務感から努力していたわけではない。
 つまり、成果主義というシステム自体は、労働者に勤労意欲を与えるインセンティブの体系として以前からわが国に存在していたのであって、アメリカ型の経営方針に追従して急に始まったことではないのである。問題は、安定成長期に入った日本の企業の多くで、成果に対して昇進という形で実際に報われる可能性が減少してきている点にある。何よりも労働者はそのように感じているはずだ。勤労の成果に対する報酬が見えにくくなってきたことで、かつては現実的であった将来の昇進の可能性も、現在では漠然としてしまってインセンティブの強度が[ ⑦ ]している。成果を何で測るかということが大きな問題点になることは確かであるが、それにしても何らかの形の成果主義を持ち込むことなしに、勤労意欲を引き出すことは難しい。したがって、成果と報酬の関係をはっきり規定することで、インセンティブの強度をわかりやすいものにしようとする成果主義型の給与体系の理念は、試行錯誤を続けながらも効果的なインセンティブ契約として今後も広まっていくであろう。
 ご褒美や罰は現在すぐに与えなくても、将来に与えることを約束したり、あるいはある一定の確率で与えることで、相手へのインセンティブになりうる。したがって、[ ⑧ ]な関係を前提とすれば、現在の行動を条件にして将来に罰を与えるという約束、いわば条件付罰則戦略も、相手に特定の行動を促すインセンティブになる。使いようによっては、インセンティブのコストを抑える有用な手段である。約束に反することがあれば罰を与えるという策は、実際にはいつまでたっても罰則を与えることなしにインセンティブを与えることができる。大多数の法律はその効果を利用している。法律で禁じられているからやらないということは、言い換えれば法律が条件付罰則戦略になっているということだ。
 本来相反する利害関係にある人々であるはずなのに、なぜか協調関係が生まれてしまっている現象は、この種の条件付罰則戦略が応用されていると理解できる場合がある。工事の受注に関する談合の事例は数限りないが、素朴な疑問は本来競争関係にあるはずの建設会社の間で、なぜそのような協調ができるのかという点である。この場合の条件付罰則戦略とは、もし談合破りをして誰かが安値受注をすれば、そのあとは約束をご破産にして全社で安値受注に走ろうというものだ。このような条件付罰則戦略を相手がとったとき、談合破りは将来の熾烈な価格競争で利益を[ ⑨ ]することを意味するから、約束通り順送りに受注したほうが得になるので、談合を破らないのが最善である。そうすると、罰則であるはずの熾烈な価格競争はいつまでたっても起こらず、順送りの高値受注が維持できるのだ。
 人の行動をコントロールするためにはインセンティブを与えることが必要であることはすでに述べたが、そのインセンティブの強さの程度が問題である。インセンティブが強ければ人はそれだけその行動に励むであろう。しかし、インセンティブを与えるにはコストがかかるし、また行動を誘うのにも適当な程度というものがある。回収した空き缶1つに対し1000円の報酬金を払うことにすれば、わが国の道という道から立ち所に空き缶は消え去ることであろう。しかしながら、そのために支払わなければならない費用は莫大となるのもこれまた確実である。強いインセンティブを与えれば与えればよいというものではない。何事にも[ ⑩ ]というものがある。
単純な物の売買では、物に値段がつくことでインセンティブの調整が自動的に行われている。たとえば、製作するのに2000円のコストがかかる品物に対して3000円までなら払う用意がある人がいたとする。この場合、2000円以上で製品が売れるのでなければ、製作するインセンティブが生まれない。一方、買い手のほうには3000円以下の価格ならば買うインセンティブが生じる。したがって、この製品の値段がたとえば( A )円となれば、生産者は製作をして買い手はそれを買い入れるから、めでたく品物はこの世に生まれてくるわけだ。一方、買い手が払いたい金額が1000円までであれば、生産者に作るインセンティブを与えかつ買い手にも買うインセンティブを与えるような価格はないから、( イ )。このように参加する生産者と買い手の間でのみ費用と便益のやり取りが行われる単純な取引のシナリオでは、価格が適度なインセンティブをに与えると期待できる。
(梶井厚志『戦略的思考の技術 ゲーム理論を実践する』中公新書、2002年、第4章を改変して作成した。)

問1.本文中の空欄に当てはまる最も適切な語を次の選択肢から選びなさい。なお、同じ選択肢は2回以上使いません。
  上げる  圧迫   異質   気分   強化   強制的
  許容   経験   経済的  現実   健全   最少量
  搾取   下げる  自動的  社交的  習慣   衝動
  戦略的  妥当   短期的  長期的  追徴課税 適量
  同化   道徳的  なくす  認識   罰金   否定的
  不当   分散化  報酬   理念的  劣化   連鎖的

問2.本文中の空欄( A )に当てはまる最も適切な数字を次の選択肢から選びなさい。
  500    1500    2500    3500

問3.本文中の空欄( ア )に当てはまる最も適切な語句を、15字以内で記入しなさい。

問4.本文中の空欄( イ )に当てはまる最も適切な語句を、10字以内で記入しなさい。



問1.⓪ 不当   ① 罰金   ② 上げる  ③ 気分
   ④ 現実   ⑤ 認識   ⑥      ⑦ 劣化
   ⑧ 長期的  ⑨ 下げる  ⑩ 適量

問2.2500

問3.人の行動を変えられる(可能性がある)

問4.(この世に)存在しない

2021年3月2日火曜日

不条理に挑む(2)(慶応・環境情報2021入試・小論文より)

 不条理に挑む(1)の続きです。



問2. あなたがこの世の中で不条理だと感じていることを15個挙げてください。また、なぜそれらを不条理と感じるのか、個々の不条理の内容と理由をそれぞれ簡潔に1文で記述してください。
 なお、不条理は、個人的かつ情緒的な内容(例えば、夜起きていたいのに眠くなる、◯◯を見るとカッとする、など)ではなく、下記の課題ジャンル(a)〜(c)のいずれか、もしくは、複数に関わる内容を記述してください。
 不条理ごとに、各解答欄右の四角(□)内に課題ジャンルを付記し、挙げた全ての不条理を通して(a)〜(c)の全てを網羅してください。

課題ジャンル:
 (a) 人間の慣習に関すること
 (b) 社会のしくみやルールに関すること
 (c) 人間と環境の関係に関すること


問3. 問2であなたが回答した不条理のうち3つを取り上げ、その解決の方向性と方法(※2)について、解決のカギとなる技術革新・アイデアを含め、できるだけ具体的、定量的、かつヴィジュアルに説明してください。
 記述する際は、各解答欄の左上の四角(□)内に、問2のどの不条理を取り上げたのか、その番号と(a)〜(c)の課題ジャンルを記入してください。

(※2)例えば、カップラーメンを食べる場合、麺を食べられるようにほぐすというのが解決の方向性、お湯をかけて待つ、もしくは、水を入れて電子レンジにかける、というのが解決の方法の例です。

不条理に挑む(1)(慶応・環境情報2021入試・小論文より)

 慶應義塾大学 SFC 環境情報学部は、残すに値する未来を一緒に創造できる人を求めています。
 私たちが生きるこの世の中では、たくさんのことが目まぐるしく変化しています。私たち一人ひとりは、望む、望まないにかかわらず、目まぐるしく変化するこの世の中で、生きていくことになります。
 この世の中には、不条理な(※1)ことがたくさんありますが、それら臭いものに蓋をしても、隠し通すことはできません。近い将来、私たちが生きているうちに、必ずそれらと向かい合う日がやってきます。
 腰がひけたまま、他人事のように未来をただ待つのではなく、私たち一人ひとりが、どうすればそれらの不条理を解決し、残すに値する未来を創造できるのかを考え、できることから仕掛けていくことが大切です。
(※1)ここでいう「不条理な」とは、英語の「Irrational」を意味し、「理性的な、分別のない、道理のわからない、不合理な」という意味を表すとします。
 以上のことを理解した上で、次の問1〜3に答えてください。

問1.不条理を解決する第一歩は、論理的にあり得ない問題を発見し、定量的な観点から、合理的な答えを導き出すことです。
 このことを踏まえ、問1ー1、問1ー2、問1ー3に答えてください。

問1ー1.数量 A は 46+x、数量 B は 49−xで、x>0 であるとします。この数量 A と数量 B を比べたとき、次の(ア)〜(エ)のどれが論理的に正しいか、一つ選んで解答欄に記入してください。
   (ア) 数量 A の方が数量 B よりも大きい。
   (イ) 数量 B の方が数量 A よりも大きい。
   (ウ) 数量 A と数量 B は等しい。
   (エ) 与えられた情報だけでは決定できない。

問1ー2.それぞれ異なる整数 s , f , c があり、いずれも正の整数であるとします。整数 s は f の因数、f は c の因数であるとき、以下の(ア)、(イ)、(ウ)の記述のうち、どれが正しいでしょうか。(ア)、(イ)、(ウ)の記述のうち、正しいと思われるものをすべて選んで、解答欄に記号で記入してください。
   (ア) s は f の2乗の因数である。
   (イ) s は fc の因数である。
   (ウ) s は f−c の因数である。

問1ー3.x=2 -1 , y=10 -1 であるとき、(1/x)(1/y3+1/y+1)−1 の値とは何か、解答欄に数値を記入してください。



この後、
  問2.不条理を15個挙げよ。
  問3.そのうち3個の解決策を探れ。
そんな問題が 続き ます。



《解答》
問1ー1.(エ)
問1ー2.(ア)、(イ)、(ウ)
問1ー3.  2021

2021年3月1日月曜日

こんなにも見事な柱状節理

 日本は火山列島なんだから、柱状節理なんてものはどこにでもある。そう言えなくもないが、伊豆半島のほぼ先端、爪木崎の俵磯の柱状節理は見事だ。


 遠くにぼんやりと伊豆諸島の利島が見える。

100人目のチャンネル登録をお願いします

 最近SNSでよく見かけるのが「Youtube にチャンネル登録をお願いします!」の連呼。見苦しいですよね。みっともないですよね。その人の Youtube に人気が出るとも思えない。
 そう言いながら、私もここで同じようなことを言うわけです。しかもチャンネル登録のお願いがこの投稿のメイン・テーマです。他の人の「動画がメインで、ついでにお願い」よりストレートですね。
 私が Youtube にアップしている動画は去年春(2020年5月〜7月)にやったオンライン授業の動画(全9回、全10本)です。当時うちの学校の中学3年の生徒たちの一定割合(おそらく8〜9割程度)が視聴した後、保護者の方・一般の方にも見ていただいて、視聴回数もじわりじわりと増え、チャンネル登録者数も気がついたら99人になりました。次に登録するあなた(?)が100人目!です。
 そして去年春からもう半年以上アップしていないのですが、もうすぐ新しい動画をアップロードする予定です。次の春休みに実施する講習「数学目線で社会を見る」の動画です。中身を具体的に言うと「論理式とゲーム理論」です。
 ところで、チャンネル登録者数が100人になると何か変わるのかというと、カスタムURLが作れるようなんです。今のURL(→ https://www.youtube.com/channel/UCljgJEJPOsFs3IAla_9mtaA )は単に長い文字列で誰のチャンネルだかも分からないのですが、それがもっと分かりやすくなりそうです。そんな具体的なメリットがあるから、皆さんに「100人目のチャンネル登録」をお願いしているわけです。

 さて、ここまで読んできて「結局 Youtube での人気を期待しているんじゃないか」と思った人もいるでしょう。その見方について、3割は『その通り』です。けれども、7割は『違います』。
 というのは、まず「せっかく始めたオンライン授業をやめちゃうのは勿体ない」と思うからです。私個人というより、日本の学校全体においてそのように私は感じています。コロナがあろうが無かろうが「授業のオンライン化は時代の流れ」でしょう。
 次に「そのコンテンツを広く社会で共有した方が良い」と考えるからです。それは言い方を変えると「囲い込みをやめる」ということでもあります。先生の側からしても、生徒の側からしても「学校という垣根を取り払う」ことがオンライン授業のメリットなのです。
 ですから、私としては「春の講習を良いものに」しながら「広く教材を社会に提供」できて、しかも「ユーチューバーとして人気が出る」なら、それに越したことはないのです。この3つは「繋がって」います。それを「切り離すことに意味は無い」。
 最後にもう一度、100人目のチャンネル登録をお願いします。うわっ、見苦しい、みっともない。