2019年3月23日土曜日

人口推計(慶応大の入試問題より)

 情報科のカリキュラム 「モデル化とシミュレーション」 に該当しそうな問題が、今年の慶応大学商学部の論文テストで出た。このまんま高校の定期試験に出してもよさそう。



(慶応大 商学部 論文テスト 2015)
◇ 以下の文章を読んで、問1~問5に答えなさい。

 日本の平均寿命が男女とも80歳を超えることになった。平均寿命とは0歳児の平均余命である。その計算のもとになる統計データが生命表である。はじめて生命表とよぶにたる統計は1662年にロンドンの呉服商ジョン・グローントによって示された。グローントは100万人以上ではないかとうわさされていたロンドンの人口推計もおこなっている。グローントが注目したのは、教会が記録していた教区ごとの出生数(幼児洗礼数)や死亡数(死因別埋葬数)の統計で、その統計数値の比の安定性である。ロンドンの平均的な教区では年間11世帯当たり3人の死亡が報告されていた。そして典型的な世帯は8人(両親、3人の子供、3人の使用人)からなると観察した。グローントはロンドンの人口推計に必要だが計測されていなかった世帯数を(ア)出生数(イ)死亡数(ウ)家屋の数 の3通りの異なった方法で推定している。(ア)の方法では1年間に出産した女性の数の4倍を世帯数と考えた。教会のデータでは年間出生数は12000だった。(イ)の方法では年間死亡数は13000であった。(ウ)の方法では、ロンドンの地図ではシティの城壁内には1区画当たり54世帯で220区画あり、城壁内の世帯数は死亡数から推定するとロンドン全体の1/4であった。これら(A)3通りの方法で得られた世帯数からロンドンの人口を推定した

 表1 グローントの生命表
年齢生存数死亡数(B)年齢階級値(C)(B)×(C)生存年数計死亡時の平均年齢平均余命
010036310818221818
664241126417142721
1640152131514503620
262593127911354519
36166412468565418
46104512046106115
5663611834066812
663271142223748
7611818181815
860

 グローントの作成した生命表は現在利用しているものとは少し異なるが、現代風に直すと表1になる。いま100出生数があったとすると、6歳までに36人が死亡する。死亡する年齢は均等に分布していると仮定すると3歳(年齢階級値)まで平均的に生きたと考えられる。36人については3歳まで生きたので、計108歳・人が生存した人数となる。年齢別の死亡数を推定して100人の出生がゼロになるまで死亡数を記入すると、生命表が完成する。表1では年齢76歳の人は1人生存してこの人は81歳まで生きると考えられる。66歳の人は3人生存していて、3人で計223年生きると期待される。つまり66歳の人は平均すると約74.333歳まで生きる。66歳の平均余命は約8.333歳ということになる。この計算を繰り返して、0歳の平均余命がこの年の平均寿命ということになる。この例では18.22歳である。

 表2 日本(男)の生命表(簡略版)
年齢生存数死亡数(B)年齢階級値(C)(B)×(C)生存年数計死亡時の平均年齢平均余命
0100050(エ)
101000150(エ)
2010012525(エ)
309913535799280.7350.73
409824590795781.1941.19
5096455(オ)786781.9531.95
60921065650764783.1223.12
708221751575699785.3315.33
806138853230(カ)88.898.89
902322952090219295.305.30
10011102102102102.002.00

 日本の生命表の男子のものをグローント風に簡単に示したものが表2である。19歳末までの死亡数は小数点以下のため0と切り捨てている。また(エ)、(オ)、(カ)および(-)の部分には適当な数値が入る。(エ)は3か所とも同じ値である。平均寿命がのびることはよいことであるが、日本は少子化のため人口が減少している。よく知られている合計特殊出生率は1人の女性が死ななければ生涯で出産する子供の数を、年齢別出生数から計算したのものである。将来の人口を知るには1人の女性が途中で亡くなることも考慮し、しかも生涯で何人の女児を生むかという純再生率(NRR)が便利である。NRRは現状では0.68である。NRRが1であれば人口は増えもせず減りもしない状態になる。日本人女性の平均出産年齢が31.5歳とすると、1世代は31.5年と考えられる。つまり、いま100人女性がいたとして、1世代(31.5年)後には、100×0.68=68人の女性が子供を産むことができる。2世代後では、46.24人、以降の世代では31.44人、21.38人、14.54人となる。0.68の6乗はほぼ0.1(≒0.686)なので6世代後には10人となる。2012年時点で日本に出産可能な女性の人口はほぼ26000000人(2600万人)である。仮にNRRが将来もずっと0.68で、平均出産年齢も一定だとすると、将来人口はどうなるだろうか。現在は世界一の人口を有する中華人民共和国(中国)でもNRRは低く日本とほとんど同じである。ただし出産可能な女性の人口が、現在300000000人(3億人)いて、平均出産年齢は27.2歳である。韓国、台湾や香港のNRRは日本や中国よりも低い値である。遠い将来、東アジアの人口はどうなるだろうか。

問1.下線(ア)の方法によるロンドンの推計人口は □□□ 000人 となる。
   下線(イ)の方法によるロンドンの推計人口は □□□ 000人 となる。
   下線(ウ)の方法によるロンドンの推計人口は □□□ 000人 となる。
   1000人未満は四捨五入して答えること。
問2.表2の(エ)にはすべて同じ数字が入る。
   これから日本人男性の平均寿命は □□.□□ 歳 と推定できる。
   表2の(オ)には □□□ 、(カ)には □□□□ が入る。
問3.表2によると日本人男性に60歳から毎年200万円の年金を支払うとすると、死亡するまでに □□□□ 万円を受け取ることができると計算される。同じ金額を20歳から59歳まで40年間働いて毎月の貯蓄でまかなおうとすると、利息や途中で死亡する場合を考えないとき、月々の貯蓄額は約 □.□ 万円となる(1000円未満は四捨五入すること)。70歳から毎年300万円の年金を受け取るプランだと60歳から200万円受け取るプランとほぼ同じ額を生涯で期待できる。69歳まで50年間働く場合、毎月の貯蓄額に換算すると約 万円少なくてよい(1万円未満は四捨五入すること)。
問4.日本の女性が1人以下(人口消滅)になるのは、現在の純再生産率(NRR)が一定で世代年数(31.5年)も一定とすると、□□ 世代後のおよそ西暦 □□ 00年である。100年未満は四捨五入して答えること。
 現在の純再生産率(NRR)が一定で世代年数(27.2年)も一定とすると、中国の女性が1000人以下になるのは、いまからおよそ何世代後のことか。 □□ 世代後のおよそ西暦 □□ 00年。100年未満は四捨五入して答えること。
問5.下線部(A)について、グローントが世帯数について3通りの方法を試みたのはどのような理由か。30字以内で述べなさい。



《解答》
問1.(ア) 世帯数は 12000×4 = 48000。   人口は 48000×8 = 384 000人。
   (イ) 世帯数は 13000×11/3 = 47667。 人口は 47667×8 = 381 000人。
   (ウ) 世帯数は 54×220×4 = 47520。  人口は 47520×8 = 380 000人。
問2.(エ) (7992+25)÷100 = 80.17
   (オ) 4×55 = 220
   (カ) 2192+3230 = 5422
問3.200万円/年×23.12年(平均余命) = 4624 万円
   2312 万円÷480か月 = 9.6 万円/月
   貯蓄する期間が 5/4 倍になるから、毎月貯蓄する額は 4/5 倍でよい。
   約 2 万円少なくて済む。
問4.6世代で女性人口が1/10になるので、現在の日本の出産可能な女性人口2600万人は、6×7=42世代後には2.6人になり、45 世代後=31.5×45=1418年後の西暦 34 00年には人口が消滅する。
   一方中国では 6×5=30世代後に3000人になり、33 世代後=27.2×33=898年後の西暦 29 00 年には出産可能な女性人口が1000人以下になる。
問5.異なる方法による推定値を比較して、推定値の精度を上げるため。 (30字)

0 件のコメント:

コメントを投稿