2019年3月13日水曜日

レオナルド・ダ・ヴィンチになる方法

 レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452~1519)が現代に生きていたら、絵描きにはならなかっただろうと思うのです。彼はきっとプロデューサーかプロジェクト・マネージャーになっていたでしょう。自ら手を下して物を作るというより、全体を統括する立場です。全体と細部をデザインして、自分のイメージを明確にみなに伝え、良いものを作っていけた人だろうと思うのです。
 私がそう考えるのは、彼が残した膨大な手記やメモからです。デッサン風の絵を中心にして、周辺にたくさんの言葉や数字を散りばめています。自分が考えたこと・観察したこと・外から得た情報を、1枚の紙に書き出しながら、整理しながら、人に伝えられるようなものになっています。
 これは今風に言うと、マインドマップなんですね。それを描く際にメインになるのは絵です。それを周りの言葉や数字や絵が補います。一直線に進む文章と違って、あっちに飛んだりこっちに飛んだり自由自在。俯瞰すれば全体像が見え、ある部分を見つめれば細部が見えます。そこに考えたこと、気がついたことなどをどんどん描き込みます。描けばさらにイメージが膨らんで、また何かが浮かんできます。それを年がら年中描いていた。しかもあらゆる分野に及んでいた。そしてそれらが彼の中でつながっていた。その点がレオナルド・ダ・ヴィンチの強みなのです。

 ところでレオナルド・ダ・ヴィンチはたくさんのアイデアやデッサンを残しましたが、具体的な物を発明するということはありませんでした。空を飛ぶ道具(飛行機)や海中を進む船(潜水艦)など当時としては斬新すぎるアイデアも彼はたくさん描いていますが、それらが実現したという形跡はありません。
 それでも建築や土木・軍事などの分野で彼のアイデアが採用されたということはあったようです。また絵画の分野で彼の手法が他の絵描きたちに影響を与えたということは当然あったでしょう。
 つまりレオナルド・ダ・ヴィンチはハード面での発明家というよりも、ソフト面での発明家だったと言えるのではないでしょうか。そしてそのように考えると、私たちがレオナルド・ダ・ヴィンチから学ぶことは多いと思うのです。
 というのは、現代においてどんな発明がありうるかと考えると、それは多くの場合、ソフト面での発明だろうと思うからです。言い方を変えると、デザインです。あるいは提案です。
 そのために必要なのは、何にでも興味を持ち、よく観察して、すでにある情報を自分の視点で編集しながら取り入れて、全体と細部をデザインして、それをみんなに伝えること。その際にレオナルド・ダ・ヴィンチのようにササっと絵に描く習慣があれば強いでしょう。
 そんな人は今でもいます。人に説明するときササっと絵に描いて示す人、メモ帳やノートのかなりの部分が絵で占められている人、授業中気がつくと教科書の隅に絵を描いている人、そんな人にはレオナルド・ダ・ヴィンチの素養がすでにあります。
 加えて現代においては、他にもツールがあります。IT機器です。レオナルド・ダ・ヴィンチが紙に描いてやったのと同じようなことを、現代の私たちはIT機器を使うことで、ある面ではより効率的に効果的にやることができるはずなのです。
 ちゃちゃっとネットで調べたり、パソコンでプレゼンテーションのための資料を作ったり、表計算ソフトを使って数値化して示したり、必要に応じてコード(プログラミング)を書いたり、現代の私たちはそんなこともできるわけです。
 レオナルド・ダ・ヴィンチの時代、彼の才能を生かして生活の糧を得るためには画家になるしかなかったのかもしれません。でも、現代では違います。例えば2020年東京オリンピックの開会式・閉会式のプロデュース、リニアモーターカーの発着駅となる現JR品川操車場の再開発プロジェクト、現代のレオナルド・ダ・ヴィンチはそういう場面で力を発揮することでしょう。彼らに求められるものは、

  • 多方面にわたる最新の技術や動向を一通り押さえ、
  • 何か面白いものはないかと常にアンテナを張り巡らし、
  • 上司にも部下にもユーザーにも的確に情報を伝えながら、
  • 多様な文化・価値観・使い勝手を一つの形に織り上げる

こと。出来栄えを決めるのはデッサン力もしくはデザイン力、使える道具はIT機器。芸術家でなくてもいいし、専門家でなくてもいいんです。けれども新しいものを作っていくには、クリエーターでなければならない。現代のレオナルド・ダ・ヴィンチは、きっとあなたのそばにもいます。


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