(慶應大学商学部2020年度入試「論文テスト」より)
以下の文章を読んで、次の問1〜問5に答えなさい。
不確実性の時代と言われて久しいが、われわれの社会や生活は昔から多くの不確実性に直面してきた。もしわれわれが確実性の下で生活し、将来のことを確実に予測することができるならば、われわれの生活は心配事がなく楽になるだろう。しかし生活があまりにも単純になりすぎ面白みもなくなるかもしれない。現実にはわれわれは、不確実性の下で生活をしているため、多くのリスク(危険)に直面している。すなわち、将来何が起きるかは現在確実に知ることはできない。明日、自動車事故に遭うかもしれない。または火災で自宅を失うかもしれない。不況のために会社が倒産したり、失業するかもしれない。
われわれが日常生活を送る上で、また企業活動を行う上で、必然的にリスクに直面することになると言ったが、逆に進んでリスクをとろうとする人もいる。その例には、年末などに多くの人が夢を見て購入する宝くじがある。宝くじを購入したとしても、確実にそれが当たるわけではない。たとえば宝くじが一枚100円、100万円の当たり券が一枚だけで、一カ月後100万円が当たる確率は1万分の1という、簡単な宝くじを考えよう。当然、何番の宝くじが当選券かが分からないという不確実性の下で、宝くじを購入しなければならない。彼らは夢を買っていると言われるが、実はリスクを買っているのである。
このように、不確実性またはリスクとは、現在においては将来のことを
( あ )ことに起因している。
宝くじではお金を出してまでリスクに直面しようとする人がいるのに対して、交通事故や火災などによるリスクを避けようとする人もいる。多くの人は自動車事故や火災によって大きな損害を受けることを避けようとする。リスクに対する態度は人によって異なっている。リスクを購入する人を危険
( A )者と呼ぶのに対して、リスクを避けようとする人は危険
( B )者と呼ばれているが、それらは次の例で明らかである。
今、二つの選択肢があるとする。一つは、それを選べば確実に5000円もらえるものである。すなわち、確率1で5000円もらえるものである。もう一つは、サイコロを転がし、偶数が出れば1万円もらえるが、奇数が出ると何ももらえないものである。この時、1万円もらえる確率は2分の1であり、何ももらえない確率も2分の1である。そのため、どちらを選んでももらえる金額の期待値(=「もらえる金額 × 確率」の合計)は
( 1 )円となっている。このとき、同じ期待値の金額であっても、確実に5000円もらえる選択肢の方が、1万円になるか0円になるか不確実な選択肢よりも好ましいと思う人は危険
( B )的である。逆に、確実に5000円もらえるよりも不確実な選択肢を好むという人は危険
( A )的である。また、どちらも同じであると考える人は、危険
( C )的である。
前の宝くじの例をとっても同じように考えることができる。宝くじを100円で買った場合には、当選確率が1万分の1であるため、宝くじの儲けの期待値は
( 2 )円となる。また、宝くじを買わない場合は、損得がないため、儲けの期待値は
( 3 )円である。したがって危険
( B )者は宝くじを購入せず、危険
( A )者は宝くじを購入することになる。
事故や河合において直面するリスクも、宝くじと同じように考えることができる。現在、将来事故に遭うかどうか明確には分からない。不幸にも事故に遭うと100万円の損失を被り、事故に遭わなければ損失はゼロである。そして事故に遭う確率は1万分の1であるのに対して、事故に遭わない確率は1万分の9999であるとする。このときの損失額の期待値は
( 4 )円である。ここで簡単な保険の例を考えてみよう。保険料が
( 5 )円であり、事故が起きた場合に100万円の補償金を支払う保険を考えてみよう。このとき
( 5 )円の保険料で確実にリスクを
( B )することができる。保険に加入しない場合の損失の期待値は
( 4 )円である。個人にとっての期待値での損失は、保険に加入してもしなくても
( 6 )円であるため、危険
( B )者は、損失が100万円になるかもしれないケースよりも、確実な
( 5 )円の損失のケースを選ぶことになる。危険
( B )的な個人は保険に必ず加入しようとする。逆に、危険
( A )的な人の場合はこうした保険に加入しないであろう。一方、この保険を提供する保険会社の収益はどうなるであろうか。たとえば、加入者が100万人であったとしよう。保険会社にとっての保険料収入は
( 7 )億円となる。そして保険加入者100万人のうち事故に遭う人の割合が、各個人の事故に遭う確率と等しくなると、事故に遭う人の数は平均的に
( 8 )人であるため、保険会社が支払う補償金総額は
( 9 )億円となる。
つぎに、事故に遭った場合の損失は前の例と同じように100万円であるとするが、前の例で前提としたタイプの個人に加えて、もう一つのタイプの個人がいるとすると、保険市場はどうなるであろうか。すなわち、第1グループの人たちの事故確率は1万分の1であるが、第2グループの人たちの事故確率は1万分の2であるとする。たとえば、自動車事故であるとすると、第1のグループの人たちの運転は比較的安全であるのに対し、第2のグループはスピードを出しすぎたり危険な運転をする人たちである。第二のグループの人数も、第1のそれと同じく100万人であるとする。このときかいう個人は自分が安全なドライバーか危険なドライバーかを知っている。一方、保険会社は、二つのタイプの事故確率や人数を知っているが、個々の保険加入者が安全な運転をする人か危険な人か、を識別することができない。
つぎに、事故に遭った場合の損失は前の例と同じように100万円であるとするが、前の例で前提としたタイプの個人に加えて、もう一つのタイプの個人がいるとすると、保険市場はどうなるであろうか。すなわち、第1グループの人たちの事故確率は1万分の1であるが、第2グループの人たちの事故確率は1万分の2であるとする。たとえば、自動車事故であるとすると、第1のグループの人たちの運転は比較的安全であるのに対し、第2のグループはスピードを出しすぎたり危険な運転をする人たちである。第二のグループの人数も、第1のそれと同じく100万人であるとする。このとき各個人は自分が安全なドライバーか危険なドライバーかを知っている。一方、保険会社は、二つのタイプの事故確率や人数を知っているが、個々の保険加入者が安全な運転をする人か危険な人か、を識別することができない。
保険会社は、ここの保険加入者のリスクを識別できないため、すべての個人を同じように扱おうとする。すなわち保険会社は、加入者全体について各タイプの事故確率と人数を知っているため、全人口の平均的事故確率を計算することができる。そしてすべての個人の事故確率を全人口の平均的事故確率と見なし、すべての個人が同じ事故確率を持っているとした前のケースと同じように、保険会社は保険料を決定することになる。二つのグループそれぞれの事故確率が1万分の1と1万分の2の人が半分ずついるため、保険会社は全人口の平均事故確率を2万分の( 10 )であると推測する。このとき、保険会社が損失補償のために平均的に必要な金額は( 11 )億円である。このとき、保険会社が保険料を( 12 )円に設定すると、すべての人が加入した場合には、保険料収入は( 13 )億円となり、収支が均衡することになる。
一方、この保険契約は保険加入者にとってはどうであろうか。まず、第2グループにとってはこの契約は魅力的であることがわかる。危険な運転をする人にとっては、事故確率が1万分の2であるため、損失の期待値は( 14 )円となる。したがって保険料が( 12 )円であるときでも、彼らは危険( B )のために保険に加入しようとする。したがって( 12 )円の保険料は彼らにとって( D )となるため、第2グループの人たちはすべてこの保険に加入しようとする。
しかし、安全な運転をする人は、このような保険契約に満足するだろうか。彼らにとっては事故確率が1万分の1であるため、損失は期待値が( 15 )円となる。それに等しい保険料であれば、第1グループの人たちは、危険を( B )するために保険に加入しようとする。しかし( 12 )円の保険料はそれに比べて( E )になる。そのため第1グループの人々にとっては、( 12 )円を支払って保険に加入しリスクを完全に( B )するよりも、保険に加入せずリスクを被るほうが好ましいかもしれない。もしそうならば第1グループの人々は保険に加入しなくなる。また、同じグループでも個人間で危険( B )度などで違いが存在するならば、第1グループの一部は保険に加入しなくなる。(中略)
事故確率の異なる、さまざまな人が同じ保険契約に加入するとき、保険料が上昇していくと、安全な運転をする人から順番に保険料を高いとみなし、保険加入を加入をあきらめることになる。その結果、保険に加入し続ける人の平均的リスクが大きくなっていくのである。kのように保険料の上昇と共に、リスクの小さい良質な加入者が保険市場から撤退し、リスクの大きな加入者だけが残る現象は、(a)「逆選択」または「逆淘汰」と呼ばれている。
問1.本文中の空欄( 1 )〜( 22 )に入る適切な数字を答えなさい。
問2.本文中の空欄( A )〜( C )にあてはまる最も適切な語を次の選択肢から選びなさい。なお、同じ選択肢は2回以上使わないこと。
愛好 安全 回避 関係 困難 状態 対立 中立
問3.本文中の空欄( D )と( E )にあてはまる最も適切な語を次の選択肢から選びなさい。なお、同じ選択肢は2回以上使わないこと。
確率 公正 設定 中間 飛躍 不安 割高 割安
問4.本文中の空欄( あ )に入る最も適切な語句を15字以内で記入しなさい。
問5.本文中の下線部(a)にある「逆選択」を防ぐためには、保険会社にはどのような情報が必要であるか。本文の論旨にそって、20字以内で記入しなさい。