2019年3月12日火曜日

お金に働く慣性の法則

 グローバル経済では、モノは国境を越えて自由に移動する。だから、為替相場が動いても、原材料も製品も世界中でやがて同じ価格になっていく。
 話を簡単にするために、円の価値だけが変わり、他の通貨の価値もモノの価値も変わらないものとして考えよう。元の状況が「1ドル=100円」で、製品の価格のうちの原材料費と人件費と利益の内訳が(図1)のようだったとする。ここで「1ドル=80円」の円高になれば(図2)のようになるのが自然である。また、「1ドル=120円」の円安になれば(図3)のようになるのが自然である。そうであれば、商品の売れ行きも労働者の購買力も前と全く変わらないことになる。
 ところが、である。人件費だけは、どうもこのようにならないようなのだ。円高になった場合は、円額の人件費が減って当然なのに、労働者は円額の賃金を守ろうとする。でも、それでは実質的に賃金が上がるのと同じことだから、その分、企業が利益を減らす(図4)か、あるいは人件費の安い海外に工場を移転する(産業の空洞化)しかなくなる。
 反対に、円安になった場合は、円額の人件費が上がって当然なのに、経営者はそれを容易に認めない。それでは実質的に賃金が下がるのと同じことなのだが、人件費を下げれば、その分だけ企業の取り分が増える(図5)か、あるいは製品を値下げできて、どっちにしても企業業績が良くなるのである。



「通貨安が国際競争力を増す」というのは、要するにそういうことだ。人件費を実質的に下げれば、その分だけ企業が儲かるということに過ぎない。そのことをもって「景気が良くなる」、「日本経済にプラスに働く」と言っているのである。
 円相場が動けば連動して製品価格も原材料費も動くのに、人件費だけはもとの円額の数字からなかなか動こうとしない。お金に「慣性の法則」が働いているかのような現象である。「お金のドップラー効果」のなせる業である。「お金の相対性理論」を理解していない故である。



0 件のコメント:

コメントを投稿