2019年3月12日火曜日

お金のドップラー効果

 近づいてくる救急車のサイレンの音は高く聞こえ、遠ざかるサイレンの音は低く聞こえる。これが、音のドップラー効果である。
 近づいてくる星の光は星の実際の色より青く見え、遠ざかる星の色は実際の色より赤く見える。これが、光のドップラー効果である。
 円高になればある金額を円換算すると安く見え、円安になればある金額を円換算すると高く見える。これが、「お金のドップラー効果」である。
 もちろん、これは見た目の効果に過ぎない。数字が大きくなったからと言って本当の意味で増えた(値上げした)わけではないし、数字が小さくなったからと言って本当の意味で減った(値下げした)わけではない。長くなったものさし(=強くなった通貨)で測れば測定値は小さくなり、短くなったものさし(=弱くなった通貨)で測れば測定値が大きくなる、それだけの話だ。生産額でも消費額でも、また輸出企業でも輸入業者でも、あるいは国内分でも海外分でも同じである。
 たとえば、円高ドル安になれば、企業の利益を円額でみると少なくなって当然なのだ。 だから「円高で企業業績が悪化した」などという言い方は全くあたらない。ちなみにこの場合、利益をドルで換算すると増えているはずだ。
 あるいは、円安ドル高になれば、日本の株価が上がって当然なのだ。 だから「円安を好感して株価が上がった」などという言い方はまるで的外れである。ちなみにこの場合、ドルで計算するアメリカ人投資家にとっては、たぶん損得トントンだろう。
 ところが、「日本経済にとって円高はダメ、円安の方が良い」と言い張る人がいる。「円高不況」という言葉もある。日銀や政府に「円安誘導」を期待する声も多い。けれども、いずれも勘違いである。円でしか物を考えられない人の戯言である。
 彼らは円を唯一絶対のものと見ているのだろう。けれども、このグローバルな国際社会において、変動相場制という通貨交換の仕組みの中で、円を絶対視する道理などどこにも無い。



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