生活様式も生活水準も全く同じである2つの国、A国とB国があったとします。あるときA国で虫が大発生しました。そこで殺虫剤を生産・消費すれば、国内総生産(GDP)が増えます。殺虫剤によって水が汚染されたとします。水を浄化しても、飲料水を生産しても、GDPが増えます。健康被害が起きて医者にかかれば、さらにGDPが増えます。
B国では虫が発生しなかったために、殺虫剤を撒くこともなく、自然の水を飲み、健康に暮らしています。
さて、A国とB国では、どちらが豊かでしょうか。国内総生産(GDP)を豊かさの指標とするなら、A国の方がB国よりも豊かだということになります。A国の人々はB国の人々より、多く働き、多く生産し、多く消費しましたから。
けれども、A国の人々は失うばかりで、何も得ていません。B国の人々の方が、A国の人々よりずっと良い暮らしをしているといえるでしょう。
保存料たっぷりの食品はGDPにカウントされますが、自家製の安全・安心な食材はカウントされません。塩素消毒した水道水はGDPにカウントされますが、天然のおいしい地下水はカウントされません。家庭ゴミを自治体のゴミ回収に出せばGDPにカウントされますが、家庭で堆肥にするとカウントされません。
工業製品を作るときにゴミが発生し、製品そのものも最後にはゴミになります。その処理でGDPが増えます。究極のゴミは CO2 です。その対策コストもまたGDPに含まれます。
これまで、GDPが増えることを経済成長と呼んできました。けれども、それが豊かさにつながるとは限りません。産業が細分化すればするほど、行政が肥大化すればするほど、豊かさとは無関係な経済活動が増えます。豊かさにつながるのはGDP増加分のうちのほんの一部か、場合によってはGDPが増えても貧しくなります。そうなると、GDPを豊かさの指標とするには誤差が大きくなりすぎます。
さて、ここで2つの疑問が浮かびます。1つ目は「豊かさの指標として何がふさわしいか」、2つ目は「GDPは何の指標にふさわしいか」。
1つ目の疑問は別の機会に考えるとして、ここでは2つ目の疑問について考えます。GDPはむしろ「エネルギー消費量」ならびに「CO2 排出量」の指標にピッタリなんじゃないでしょうか。もちろん誤差はありますが、それを「豊かさ」の指標とするよりは、誤差はずっと小さいでしょう。
「経済成長と環境の両立」と言いますが、「経済成長≒エネルギー消費量≒CO2 排出量」だとするならば「経済成長と環境」はほぼ両立しません。むしろ対立します。経済成長は地球温暖化を加速させるだけでしょう。
むしろ両立しうるものといえば、「GDP縮小と豊かさ」ではないでしょうか。「GDP縮小≒マイナス成長しながら豊かになる」道を探る方が、「経済成長と環境の両立」を目指すより、ずっと現実的だと私は思うのです。
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