2019年4月8日月曜日

ゲーム理論で「株式投資」を解く

 上の記事「ゲーム理論で『競馬』を解く」でわかったことは、
  • みなに情報が行き渡っていて、みなが合理的に行動するなら、必ず全員が損得なしのトントンになる
  • みなに情報が行き渡っていない場合は、話は別
  • 不合理な行動をする人がいる場合も、話は別
ということでした。
 「みなに情報が行き渡っていない場合」というのは「自分(もしくは一部の者)だけがある情報を知っている」ということであり、平たく言えば「インサイダー取引」にあたります。
 「不合理な行動をする人がいる場合」というのは「誰かが明らかに本人にとって不利な行動をしている」ということであり、ぶっちゃけ言えば「アホなヤツにつけ込めば儲かりそう」ということです。
 主催者の取り分などを無視して考えればこのゲームはゼロサム・ゲームですから、こうなるのは当然です。
 現実の競馬は主催者の取り分や勝ち馬の賞金などがありますから、実際には、

  • みなに情報が行き渡っていて、みなが合理的に行動するなら、必ず全員が損をする

となります。こうなるともうゼロサム・ゲームですらありません。いわばマイナス・サム・ゲームです。

 さて、今日は「株式投資」を考えます。株式投資は競馬と同じなんでしょうか? それとも、違うんでしょうか?
 「予想して賭ける」という点ではどちらも同じです。実際にどういう結果になるかは確実にはわかりません。わかるのはせいぜい「・・・となる確率」です。
 そして「賭けるか否か?」の判断は「期待値がプラスかマイナスか」によるはずです。その点では競馬も株式投資も同じです。

 両者で異なるのは、まず「予想する期間の長さ」です。競馬の予想が数日後から数分後の長さであるのに対して、株式投資では数年後までのスパンで予想します。予想するスパンが長くなれば不確実性が増します。
 次に、両者で異なるのは「損得の振れ幅」です。競馬では負ければ掛け金をまるまる失い、勝てば掛け金が数百倍になったりもしますが、株式投資では通常はそういうことはありません。でも、期間の長さや損得の振れ幅は程度の差であって、本質的な違いではありません。
 さらに、競馬では「馬が走り終わったときに損得が1回だけ発生する」のに対して、株式投資では「株価の変動に伴って常に損得が発生する」点も両者の違いということもできます。でも、株の売買に伴って損得が確定することを1回のゲームと捉えれば、両者の違いはなくなります。
 以上、競馬と株式投資はいくつかの点で異なりますが、上にあげたことはどれも本質的な違いではありません。本質的な問題は「株式投資はゼロサム・ゲームか否か?」ということです。
 そうすると、「景気が良くなれば相場全体が上がり、景気が悪くなれば相場全体が下がる。だから、ゼロサムではない」という人がいるでしょう。けれども、その言い方はたぶんハズレです。相場全体が上がるときと下がるときがあれば、長い目で見ると結局はゼロサムだといえそうです。また、「今後、景気が良くなるか、悪くなるか」という情報をみなが共有していれば、すでにそれに見合う株価水準になっているはずだからです。
 「企業業績が良くなって、株価が上がって、実際に儲かった人がたくさんいる」という人がいるかもしれません。でも、その言い方もやっぱりハズレです。結果としての損得と、株を買う時点の期待値とはまったく別の話です。それでは、ジャンケンでたまたま勝ったことをもって、「オレはジャンケンが強い」と言ってるのと同じです。ジャンケンがみなにとって平等であることと、ジャンケンで勝ち負けが決まることを混同してはいけません。
 「景気動向や企業業績の発表に早く反応した者が勝つ」といえばどうかというと、それもアタリとは言い難い。早く反応しようにも、人間の反応速度にも限界があり、機械の反応速度にも限界があり、みなが同じ条件で同じ行動を取ろうとすると、「他人より早く反応する」ことなど出来ないからです。発表によってすでに所有している株価が動いて損得が発生しても、それは株を買う時点の期待値とは別の話で、株を買う時点ではゼロサム・ゲームだったと考えられます。発表によって株価が動いて以降は、そこで株を買うにせよ売るにせよ、あるい見送るにせよ、そこからまたゼロサム・ゲームが始まると考えられます。

 そのように考えると、株式投資も競馬と同じように、

  • みなに情報が行き渡っていて、みなが合理的に行動するなら、必ず全員が損得なしのトントンになる
  • みなに情報が行き渡っていない場合は、話は別
  • 不合理な行動をする人がいる場合も、話は別

ということになります。
 「他人より早く」反応するためにはインサイダー取引をするしかありません。でも、これは違法行為です。「みなに情報が行き渡っていない場合」というのはこれにあたります。
 「不合理な行動をする人がいる場合」がどういう場合かというと、「確実に損してくれる人がいる」場合です。証券会社のセールス・レディーの「儲かりますよ」という言葉を信じて株を売買するあなたです。
 現実には違法スレスレのインサイダー情報が飛び交い、「株は儲かるもんだ」と考える投資家がいるおかげで、投資効率(期待値)をプラスにできる人たちがいるのです。これが実態でしょう。
 でも、「みなに情報が行き渡っていて、みなが合理的に行動する」という仮定の下では、株式投資もまたゼロサム・ゲームになります。ただし、売買手数料を無視した場合の話です。
 実際には売買手数料がかかりますから、それも含めて考えると、「みなに情報が行き渡っていて、みなが合理的に行動する」という仮定の下では、マイナス・サム・ゲームにしかなりません。
 では、「株式投資などやってはならない」ということになるかというと、そうでもありません。インサイダー取引スレスレの場合や損を被せる相手がいない場合でも、株式投資をする意味がある場合もある。
 それについては、また次回。

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