2019年4月16日火曜日

分散投資のリスク削減効果(慶応大の入試問題より)

(慶応大学商学部2006年度「論文テスト」を大幅に改題)

【問】以下の文章を読み、下記の設問に答えなさい。

 証券取引所では多数の株式が売買されている。株価(株式1株あたりの価格)は常に変化するので、株式購入後に値上がりすれば投資家は収益を得て(プラスの収益)、逆に株価が下がれば損を被る(マイナスの収益)。
 株式投資を開始するとき、将来の株価がどうなるかはわからない(収益は確定しない)が、確からしさ(確率)でもって収益の値を予想することはできる。その際に考えるべきことは、収益の期待値とばらつきの度合いである。期待値とは、つまり平均値のことである。ばらつきの度合いは、標準偏差で表される。
 この場合、平均値は大きい方が望ましい。一方、標準偏差は小さい方が望ましい。標準偏差が大きい(ばらつきが大きい)ということは、それだけ大損する可能性が高いということだからである。その意味で、収益の平均値を「リターン」と呼び、標準偏差を「リスク」と呼ぶこともできるだろう。
 説明を簡単にするために、以下のような非常に単純な例で考えよう。ある投資家が200円を株に投資する。投資対象は、株式Aか株式Bのどちらかで、今の株価はどちらも1株100円である。将来の株価はもちろん今はわからないが、株式Aについては、値上がりして107円になる確率が50%で、値下がりして95円になる確率が50%だとする。株式Bについては、値上がりして110円になる確率が50%で、値下がりして94円になる確率が50%だとする。
この条件の下で、株式Aを2株買う場合の収益をXとし、株式Bを2株買う場合の収益をYとすると、X , Yの確率分布は右のようになる。
 ではここでXとYの平均値(期待値)と標準偏差を求めてみよう。このとき、Xの平均値はE(X)=2で、Xの標準偏差はσ(X)=12となる。また、Yの平均値はE(Y)=  ①  で、標準偏差はσ(Y)=  ②  となる。
 その結果を比較してみると、Yの方が標準偏差(リスク)も平均値(リターン)も大きいことがわかる。このとき、もし投資家が「なるべくリスクを小さくしたい」と考えれば、この投資家の判断は「株式Aを2株買う方がよい」ということになるだろう。
 でも、それが最も良い買い方だろうか。それでは次に、株式Aと株式Bを1株ずつ買うことを考えてみよう。ただしこの場合、株式A,Bの値動きは互いに独立だとする。つまり、株式A,Bの価格はお互いに何の影響も与えないものとする。
この場合の収益をZとすると、Zの確率分布は右のようになる。そしてこのとき、Zの平均値はE(Z)=  ③  で、標準偏差はσ(Z) =  ④  となる。
 この結果を「株式Aを2株買う」場合と比べてみよう。E(Z)はE(X)より大きい値になり、σ(Z)はσ(X)より小さい値になった。
 これは意外な結果かもしれない。リスクの小さい株式Aに加えて、よりリスクの大きい株式Bを保有することで、全体のリスクを株式Aのリスクよりも小さくできるのである。これが「分散投資のリスク削減効果」である。しかも上の例では、株式Aだけを保有する場合よりも平均値(リターン)が大きくなっている。だから、投資家にとって、株式Aだけを保有するより、株式AとBを両方保有する方が望ましいということになる。
 もっとも、このようなことが常に成り立つとは限らない。上の設定では「株式A,Bの値動きは互いに独立」としたが、現実には互いに影響し合う場合も多いからである。
 次に、株式Aと株式Bの値動きが互いに影響し合う場合を考えよう。もしAが値上がりしたときBも値上がりし、Aが値下がりしたときBも値下がりするなら、「正の相関がある」ことになる。反対に、もしAが値上がりしたときBが値下がりし、Aが値下がりしたときBが値上がりするなら、「負の相関がある」ことになる。株式Aと株式Bの値動きが独立でない場合はZの確率分布表中の確率の値が変わるので、平均値も標準偏差も独立を想定した場合とは異なる値になる。

問1.文中の空欄  ①  ~  ④  にあてはまる数を答えなさい。

問2.本文でのリスク、リターンの捉え方に沿って、次の箱ひげ図ア~エの中から「ハイリスク、ハイリターン」の株式⑤と「ローリスク、ローリターン」の株式⑥のものを選びなさい。ただし、横軸は収益を表し、右方向がプラス、左方向がマイナスである。

問3.何種類かの株式の値動きが独立でない(従属である)場合を考える。株式投資をする際に、リスクを小さくするために分散投資するなら、どのような銘柄の株を組み合わせたらよいか。本文の考え方に沿って、20字程度で書きなさい。



《解説・解答》
「分散投資することで実際にリスクが減る」ことを計算を通して理解する、高校2年生の文系の生徒たちにぴったりなとても良い問題だと、我ながら思っています。

問1. ① 4  ② 16  ③ 3  ④ 10
  ※ 定義に従って計算する。元の問題では標準偏差の意味を具体例つきで説明しています。

問2. ⑤   ⑥ 
  ※ 元の入試問題にはありませんでしたが、授業で扱った内容をトッテツケました。

問3. 値動きが「負の相関」になると予想される銘柄
  ※ 「負の相関」がポイントです。  主語「値動きが」をお忘れなく。

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