2019年4月3日水曜日

宮沢賢治の童話にみる、個性・差別化・あるがまま

 森のどんぐりたちが裁判で争っています。一郎が、裁判長の山猫に呼ばれて、意見を求められました。宮沢賢治の童話「どんぐりと山猫」から、引用します。

   ・・・(略)・・・
空が青くすみわたり、どんぐりはぴかぴかしてじつにきれいでした。
「裁判ももう今日で三日目だぞ、いい加減になかなおりをしたらどうだ。」山猫が、すこし心配そうに、それでもむりに威張って言いますと、どんぐりどもは口々に叫びました。
「いえいえ、だめです、なんといったって頭のとがってるのがいちばんえらいんです。そしてわたしがいちばんとがっています。」
「いいえ、ちがいます。まるいのがえらいのです。いちばんまるいのはわたしです。」
「大きなことだよ。大きなのがいちばんえらいんだよ。わたしがいちばん大きいからわたしがえらいんだよ。」
「そうでないよ。わたしのほうがよほど大きいと、きのうも判事さんがおっしゃったじゃないか。」
「だめだい、そんなこと。せいの高いのだよ。せいの高いことなんだよ。」
「押しっこのえらいひとだよ。押しっこをしてきめるんだよ。」
   ・・・(略)・・・
山猫が一郎にそっと申しました。
「このとおりです。どうしたらいいでしょう。」一郎はわらってこたえました。

 どんぐりたちは、差別化を望み、個性を主張し合い、お互いに競争しているようです。
 ここで、一郎が判決案を出します。山猫はどんぐりたちにその通りに申し渡して、争いはすぐに収まりました。
 さて、出された判決はどんなものだったのでしょう。みなさんも、ちょっと考えてみてください。
 引用を続けます。

「そんなら、こう言いわたしたらいいでしょう。このなかでいちばんばかで、めちゃくちゃで、まるでなっていないようなのが、いちばんえらいとね。ぼくお説教できいたんです。」山猫はなるほどというふうにうなずいて、それからいかにも気取って、繻子のきものの胸を開いて、黄いろの陣羽織をちょっと出してどんぐりどもに申しわたしました。
「よろしい。しずかにしろ。申しわたしだ。このなかで、いちばんえらくなくて、ばかで、めちゃくちゃで、てんでなっていなくて、あたまのつぶれたようなやつが、いちばんえらいのだ。」
どんぐりは、しいんとしてしまいました。それはそれはしいんとして、堅まってしまいました。
   ・・・(略)・・・

 名判決だと思いませんか? 毎年繰り広げられて今年も三日間ももめていた争いをものの1分半で解決したのですから、さすがに名判決だと言えるでしょう。おそらくこの判決は、多くの読者にとって予想外のものだったんじゃないでしょうか。そして、その判決に、心が躍るような楽しさ・嬉しさを感じたんじゃないでしょうか。
 判決は「いちばんばかで、めちゃくちゃで、まるでなっていないようなのが、いちばんえらい」でした。
 さて、この判決の真意は何でしょう。結局、どのどんぐりがえらいのでしょうか。
 またこの判決を聞いて、どんぐりたちはなぜ「しいんとして、堅まってしまった」のでしょうか。どんぐりたちは、そのとき何を考えていたのでしょうか。

 では、【問題】です。



 下のA,B,Cからあなたが判決の真意と考えるものにもっとも近いものを選んで、なぜそのように考えるのかを説明しなさい。その際、判決を聞いてしいんと堅まりながらどんぐりたちは「何を考えていたのか」についてのあなたの考えを含めること。
◇ どのどんぐりも全部 同じ
◇ どのどんぐりも全部 えらい
◇ どのどんぐりも全部 ばか
頭で理屈で考えるのではなく、あなたの心の声を聞いてみてください。判決を聞いたときの驚き・感心・ウキウキ感を思い出せば、答えが1つに絞れるのではないでしょうか。
(どっちつかずの立場でなく、どれか1つに絞って、一貫性のある説明をしてください)



《文章例》
Aプラン
 「どんぐりの背比べ」という言葉があるように、「どのどんぐりも全部同じ」というのが、判決の趣旨だと思う。要するに「人と比べたり、人の評価を気にしたりして一喜一憂するのはつまらないことだから、気にするな」と言いたいんだと思う。
 判決を聞いてどんぐりたちは「自分たちがつまらないことにこだわっていた」ことに気がついたんだろう。また自分にとっては大事に思えることでも「他人から見たらどうでもいいこと」だったりする。それらに気がついて、どんぐりたちは反省したんだと思う。

Bプラン
 どんぐりたちは争っていたというより、「個としての自分、自分の存在意義」を自ら認め、また他人にも認めてほしかったのだと思う。そして判決は「一見ヘンに見えるどんぐりだって、いちばんえらいんだ」ということだから、つまりは「どのどんぐりも全部えらい」ということになる。
 その見方はどんぐりたちには新しい見方だった。それはやがてどんぐりたちに定着していくんだろうけれど、すぐに取り込むことはできない。だから、どんぐりたちは堅まりながらその意味をかみしめているんだと思う。

Cプラン
 判決は「外見だけを問題にして、『自分がいちばんえらい』などと考えるのはバカげたことだ」という意味だと思う。言い換えると、「争うこと自体がバカげたことだ」というのが判決の真意だと思う。つまり、「どのどんぐりも全部ばか」ということである。
 またこの判決に従えば、「いちばんえらい」と認められたどんぐりは「ばかで、めちゃくちゃで、・・・」ということになる。「自分がいちばんえらい」と主張することは、それを認めることになる。そう思われたくないから、どんぐりたちは黙ったんだろうと思う。

《解説》
 ことわざ「どんぐりの背比べ」はAプラン、SMAPの「世界に一つだけの花♪」はBプラン、Cプランは「ケンカ両成敗」、そんなところでしょうか。
 文学はいろんな読み方ができるものです。この設問もどれが正解ということはありません。筋が通っていて説得力があれば、なんでもいいんです。
 ただこの設問に答える上で大事なことは「立ち位置を決めたら、ブレないこと」です。立ち位置を決める前のフラフラした状態のまま書き始めたのでは、一貫性のあるまとまった文章は書けないでしょう。


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