2019年4月3日水曜日

宮沢賢治の童話にみる、動物と人との関係

 宮沢賢治の童話に「氷河鼠(ねずみ)の毛皮」という作品があります。冬の寒い日のベーリング(北極圏)行きの列車の中でのお話です。主な登場人物は3人です。
タイチ:高級な毛皮を身にまとい、防寒対策は万全。これから動物の毛皮を取りに行く。
赤ひげ:動物たちのスパイとして列車に乗り込んでいる。狐と思われる。
船乗り:たまたま乗り合わせていた乗客。事件を解決に導く。
さて、物語の最終章。列車乗っ取り事件が起きます。
 突然列車が止まり、ピストルを持った赤ひげに続いて、熊と思しき人たちが列車に乗り込んできました。そしてタイチを捕えて、吹雪の車外へ連れ出そうとします。
 その瞬間、船乗りが赤ひげのピストルを奪い、赤ひげを捕虜にして言いました。以下、引用します。
「おい、熊ども。きさまらのしたことは尤もだ。けれどもなおれたちだって仕方ない。生きているにはきものも着なけあいけないんだ。おまえたちが魚をとるようなもんだぜ。けれどもあんまり無法なことはこれから気を付けるように云うから今度はゆるして呉れ。ちょっと汽車が動いたらおれの捕虜にしたこの男は返すから」
「わかったよ。すぐ動かすよ」外で熊どもが叫びました。
  ・・・(略)・・・
「さあけがをしないように降りるんだ」船乗りが云いました。
赤ひげは笑ってちょっと船乗りの手を握って飛び降りました。
人間は仕方なく動物を殺している。動物たちがそれに抗議するのは正当だ。だから取り過ぎないようにする」。身も蓋もなく言ってしまえば、これが動物たちと人間との合意内容です。赤ひげはそれに満足しています。
 ここがポイントだと思うのですが、赤ひげは去る間際に船乗りと握手していますね。言い方を換えれば、人間は動物に感謝しながら、その体を自分たちのために使わせてもらうということでしょう。
 太古の昔から人間は、そんな感覚を持ち続けてきたのだろうと思います。


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