2019年4月3日水曜日

宮沢賢治の童話にみる、森と人との関係

 宮沢賢治の童話に「狼森(オイノもり)と笊森(ざるもり)、盗森(ぬすともり)」という作品があります。引用しながら、紹介します。

 まずは、男たちが森に囲まれた野原を、開墾しようとしていた場面です。そこで四人の男たちは、てんでにすきな方へ向いて、声を揃えて叫びました。
「ここへ畑起こしてもいいかあ。」
「いいぞお。」 森が一斉にこたえました。
みんなは又叫びました。
「ここに家建ててもいいかあ。」
「ようし。」森は一斉にこたえました。
みんなはまた声をそろえてたずねました。
「ここで火たいてもいいかあ。」
「いいぞお。」森は一ぺんにこたえました。
みんなはまた叫びました。
「すこし木貰ってもいいかあ。」
「ようし。」森は一斉にこたえました。
ところで、人は森から一方的に恩恵を受けるのではありません。森が人におねだりすることもあるようです。
「おらさも粟餅持って来て呉(け)ろよ。」と叫んでくるりと向こうを向いて、
手で頭をかくして、森のもっと奥の方へ走って行きました。
人が収穫した粟を、森が盗んだこともあったようです。
岩手山はしずかに云いました。
「・・・(中略)・・・ 盗森は、じぶんで粟餅をこさえて見たくてたまらなかったのだ。それで粟も盗んで来たのだ。はっはっはっ。」
こうして、森と人は友達になっていきました。

 「自然を守れ」というのとは、ちょっと違う。「自然と人間の共生」というのとも、ちょっと違う。
日本人の心の中にある 森と人との関係 がよく表れている作品だと思います。


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