2020年2月5日水曜日

大学入学の選抜基準が変わる

 大学入試制度が変われば、大学が入学生を選抜する基準も変わります。どのように変わるかというと、
○ 多様性を確保する
このように変わります。細かく見れば、何種類かある資料のうちどれにどれくらいの比重を置くかとか、それぞれの評価の基準をどのように設定するかとか、それは大学によっても学部によっても違うでしょうけれども、トータルで見ると「多様性を確保する」方向で選抜することになります。そうならざるを得ないのです。

 説明しましょう。「何をすれば何点、何が書いてあれば何点」などという基準を設けたら、受験生はすぐさま対応して、みんなが同じような経験をして、みんなが同じような文章を書くことになるからです。それじゃあ大学側は選べないし、読んでいて面白くもない。いや、きっと読まないでしょう。こうして経験・作文を課すことに意味がなくなります。従来型の学力のみの一斉一発試験の方が百倍マシだということになるはずです。
 もっと幅を広げて、あるいは細かく評価しても同じことです。たとえばクラブ活動していたら1点、大会入賞でプラス何点。ボランティア活動は種類に応じて何点、日数に応じて何点。その他の記載事項のうち評価できそうなものは適宜加点。・・・そうなると受験生はポイントを稼ぐために嫌々ながらもいろんなものに手を出すでしょう。それを通じて何を得るかなどには無関係に、形を整えようとするでしょう。こうして誰も得しない結果になります。
 受験生の側から見てみましょう。受験生の中に「アピールするなら、人と違うもの」と考える人も少なからずいるはずです。多くの受験生が似たような文章を書いているなら「人と違う」というだけで好印象間違いなしです。実際、何百人・何千人の受験生が書いた文章を読むのは大変な作業です。つまらない文章、同じような文章ばかり読むのは苦痛です。
 こうして結局は、同じようなものの中で特に素晴らしいもの数点を選ぶ一方で、その他の個性的な文章から多くを選ぶことになります。そうなるのは当然ですよね。みんなと同じという時点で、それは採点者にとって「読みたくない」文章なのです。みんなと違うという時点で、それは採点者にとって「期待できる」文章なのです。
 こうして結果として「多様性の確保」が実現されるのです。こうならざるを得ないのです。

 大事なのは、その次です。合格者が入学した後に、その取り方が実にうまく機能することに大学は気づくでしょう。大学での研究は、チームで成果を出すものです。そのためには役割を分担して、リーダーがいたり裏方がいたりして、各自が得意分野で力を発揮するのが一番うまく回るんですね。違う発想どうしが融合したり、異なる見方が新しい工夫につながったりして、多様性を確保することが学生にとっても大学にとっても良いことだと認識するはずです。
 考えてみると、従来型の入試はその真逆ですね。これまではみんなが一斉に同じテストを受けて、点数の高い順に合格させていたわけですから、まさに画一的な人材を取っていたようなものです。全員にすべてのことを平等に求めていたわけです。サッカーで11人全員がボールを追いかけているようなもので、それではむしろ効率が悪いんですね。ポジションと役割を決めてプレーするチームにはまず勝てないでしょう。会社に入ってからも同じですよ。全員が「自分のプランの方が優れている」と競争する組織より、得意分野を引き受けたり弱い部分をカバーしあったりするような組織の方が成果が上がるでしょうね。
 また、新しい大学受験の形は、別の意味でも多様性の確保につながります。たとえば今どきの経済学部・商学部では「一定割合は理系の学生がほしい」と考えているはずです。従来型の一斉試験では難しいですが、新しい大学受験の形なら簡単ですね。志願者のうち理系の人の中から何人か選べばいいだけです。そういう形でも多様性が確保できます。哲学系・心理学系でも同じことを考えると思いますが、同じやり方で簡単にできます。
 あるいは理系学部であっても技術系の人ばかりでなく、デザインに秀でた人もいた方がいいですね。デザインというのは物の形ばかりではなくて、使い方や周辺にある物との関係性を考えることもデザインです。芸術性というよりも、生活スタイルを変えるという意味でのデザインです。これからの理系学部では、積極的にそういう人材も一定割合で確保しようとするでしょう。それができるのが、新しい大学受験の形なのです。

 このようにして新しい大学入試では必ず多様性が確保されるのです。むしろ大学としては、積極的に「多様な人材を確保する」ことを選抜の基準に置く方がうまくいくのです。そしてそれに合わせて受験生が対策を立てれば、それが誰にとってもハッピーなんだろうと私は思います。
 数年後の入試の採点の現場は、きっとこんな光景でしょう。受験生の文章を読む採点官の横にカゴが5つ置いてあります。カゴには次の5種類の紙が貼ってあります。
・ 絶対ほしい
・ ほしい
・ どっちでもいい
・ いらない
・ 来てほしくない
カゴに採点官が作文をポンポン投げ入れる。1分以内で読み終える作文の行先は「いらない」です。ものによっては1行読んだだけで行先が決まります。こんな選び方が一番いいんだろうなと私は思います。それ以上細かく評価することは出来ないし、基礎学力が確保されている上で多様性を確保するには、それで十分だろうと思うわけです。一通り読んでもらえる作文、「絶対ほしい」か「ほしい」に入る文章を書いてくださいね。

0 件のコメント:

コメントを投稿