2020年7月9日木曜日

携帯電話位置情報の正しい使い方

 新型コロナウィルス感染拡大に伴う緊急事態宣言発令中の頃の話です。政府から「接触8割減を目指す」というようなことが言われました。時を同じくして、携帯電話各社から携帯電話の位置情報を基にして「外出数が以前と比べてどれくらい減っているか」の情報が出されました。そして「8割減にはまだ達していない」とか「8割減には程遠い」とか報道機関がそんな言い方をしているのをよく目にし、耳にしました。
 でも考えてみると、「接触率」と「外出率」は別物ですよね。さて、「接触率≒外出率」なのでしょうか? そもそも接触率と外出率は比例するのでしょうか?
 ここで「外出する人の数が8割減」になったときに「接触率がどうなるか」を考えてみましょう。自分が外出する機会が2割に減って、外出した先でも人出が2割になっていれば、自分が接触する人数はこれまでの 0.2×0.2=0.04倍に、すなわち96%減になりますよ。つまり「接触率は、外出率の2乗に比例する」のです。もちろん現実には「濃厚か否か、接触している時間」などによって違うのでしょうけれど、おおよそそのようにみなして良いだろうと思います。少なくとも「外出率≒接触率」という想定よりはよほど実態に合うはずです。

 では、外出率がどれくらい減れば「接触8割減」が達成されるかというと、ざっくり言えば「外出する人の数が半分に」なれば良いんです。各自が外出する機会が半分になって、外出した先でも人出が半分になっていれば、各自が接触する人数はこれまでの4分の1に、すなわち75%減になります。8割減にはちょっと届きませんが、これでほぼほぼクリアです。
 携帯電話の位置情報は外出率を見るのにとても良いデータです。けれども、それは接触率とは違う。ビッグデータも意味を考えずに数字だけを見るのは、誤解の元です。ビッグデータを扱う上で大事なのは、やはり世の中を見る目線でしょうね。
 またこの件は、情報科のカリキュラムでいうと「モデル化とシミュレーション」の話題と言えるかもしれません。「接触率=外出率」と想定するモデルと、「接触率は外出率の2乗に比例する」と想定するモデルの立て方の違いとも言えるわけですから。
 そしてモデルの立て方が違えば、当然のことながらシミュレーション結果も変わります。携帯電話位置情報から得られた外出率が例えば以前の「6割減」であったとして、その情報から「接触8割減の目標」に達していると見るのか、達していないと見るのか、それくらいの結構大きな差になるわけです。


  1. 「外出する人の数が8割減れば、接触率は単純計算して96%減る」のです。でも、そこまでやらなくても良いんじゃないですか? 接触が少ないに越したことはないのでしょうけれど、目標が「接触8割削減」なら、これは「やりすぎ、過剰対応」ということになるのではないでしょうか。
  2. 新型コロナ禍の中で指数関数・対数関数はしばしば目にしました。指数関数的な増え方、対数処理を施した統計資料などです。そんな中で「接触率は、外出率の2乗に比例する」件は2次関数に出会えた稀な例でした。

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