2019年3月13日水曜日

ガリレオの思考実験

 ガリレオが行ったと言われている自由落下の実験があります。ピサの斜塔の上から重さの違う2つの物を落としたところ、地面に同時に落ちたというものです。
 ところで、その話は実話ではなくて、後世の作り話だろうという見方が有力です。というのは、現実には空気抵抗がありますから、重い物は速く(鉄球はヒューンと)落ちて、軽い物はゆっくり(花びらはふわふわと)落ちるはずだからです。空気があるところで物を落としたところで、みんなが納得できるような精度の良い実験結果が得られそうにありません。
 しかも舞台設定が「ピサの斜塔」というのがますます怪しいですね。よくよく考えると、空気抵抗の影響を小さくするには重い物を落とさなければなりませんから「重さの異なる2つの物がほぼ同時に落ちる」ことを示すためには、かなり重い物ともっとずっと重い物を落とさなければならないことになって、そんな物をピサの斜塔から落とすと床面が壊れますし、危険ですし、それをやるくらいなら橋の欄干から川に石か何かを投げ落とした方が安全・安心ですから、ピサの斜塔から落とす理由も無いのです。
 結局のところ、空気のあるところで実験すれば「重い物は速く落ちて、軽い物はゆっくり落ちる」ことが確認できるだけで、ガリレオの理論を否定する結果にしかならないでしょう。

 では現実に実験できないものを、どうやって確かめたらいいかというと、頭の中で実験してみるしかないのです。ガリレオはきっと次のような思考実験をしたのでしょう。
  • 2つの同じ球を落とすと、同時に落ちる。(図1)
  • 2つの球をくっつけて落としても、速さは変わらない。(図2)
  • ということは、くっつけた2つの球を1つの球と考えれば、重い物も軽い物も同時に落ちることになる。(図3)


 もちろんこの考え方で十分かというと、そうとは限りません。同じ材質の場合では納得できても、鉄球と木片のように違う材質のものを落とす場合の説明としては不十分でしょう。その場合の説明としては、もう一工夫必要です。
 そこで(図4)のように考えました。同じ材質のたくさんの玉を落とすと、すべて同時に地面に落ちます。そのうちの一部を密に置いて、他をまばらに置いて同時に落とすとどうなるでしょうか。この場合もやっぱりすべての玉は同時に落ますね。ここで、密に置いたもの全体を比重の重い物、まばらに置いたもの全体を比重の軽い物と考えれば、「材質が違っても比重が違っても、やっぱり同じ速さで落ちる」ことを納得できるのではないでしょうか。
 とはいえ思考実験が複雑になると、その分わかりにくくもなりますから、(図3)までの思考実験くらいがちょうどいい兼ね合いと言えるかもしれません。そして昔の人も今の人も、こんな説明で腑に落ちることもあるのではないでしょうか。
 「重い物は速く落ちて、軽い物はゆっくり落ちる」と言ったのは古代ギリシャの哲学者アリストテレスです。空気のあるところで実験すれば確かにそうなりますから、経験則としては正しいんですね。ガリレオはそれを覆したわけですが、それは「空気抵抗を無視すれば」という条件付きで成り立つ話でありまして、その条件は思考実験でしか満たされないのです。


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