2019年5月4日土曜日

投票のパラドックス(資料1)

慶応大学総合政策学部2018「小論文」より
《資料1》

 決選投票付き多数決では、候補者のランクを得るのに次のような手続きをとる。ます第1回の投票で過半数を獲得した候補者がいればこれを第1位とする。過半数をとる者がいなければ、上位二者を選んで決選投票を行う。これによる勝者を第1位とする。第2位以下を決めるときには、すでにランクの決定した候補者を除外した上で決選投票付き多数決方式を採用するのである。(最上位者が過半数の得票をしているときは、次点の者と「決戦」になっても勝つことは自明である。)
 このような手続きだけを見ると、それなりに納得できる決め方のように思われるだろう。ところがよく調べてみると、この決定方式は、他のいろいろな方式と比較しても、へんな結果を生み出す可能性の多い点でまさに「横綱級」であることがわかる。
 まずはじめに、候補者4名に対し、5名の審査員(Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳ,Ⅴ)が表1のような順位付けをもっていたとしよう。
 これに決選投票付き多数決を適用したとすると、はじめに a と y が決戦に持込まれ、第2回投票の結果 a が第1位となる。次にこの a を除外して最上位者を調べると、b を最上位者とする審査員が過半数を満たしているので、b が第2位となる。次に u が第3位となり、最後に y が第4位となる。つまり、決選投票付き多数決による全体のランク付けは abuy となる。ここまでの結果は、別段問題ないように見えるかもしれない。
 ここで、同じ表1にペアごとの多数決を適用したとしよう。つまり、総当たり方式で対比し、どの候補と対比されても多数決で「勝つ」勝者から順に選出したとする。そのとき、結果は buay となる。さきほどの結果と比較すると、決選投票付き多数決の結果の最上位 a という選択肢は、実はペアごとの多数決での最下位から2番目であったことがわかる。
 もっと奇妙なことは次の例で生じる。先の選好順序で、審査員Ⅴが、自分の選好順位における再会と、最下位から2番目とを入れかえた順序に、つまり表2のように変更したとしよう。
 ここで再び決選投票付き多数決を適用すると、先の abuy ではなく、何と ybua となる。言いかえると、審査員Ⅴが本人にはどちらでもよいに等しい最下位と、最下位から2番目とを入れかえるだけで、決選投票付き多数決の最上位と最下位が入れかわるのである。
 決選投票付き多数決のもう1つの欠陥を指摘しよう。
 今、音楽コンクールで、9名の審査員のうちⅣ名が音楽評論家(Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳ)、5名が同じ部門の一流演奏家(Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳ,Ⅴ)たちで構成されていたとしよう。そこで、審査の対象となった有力候補者4名についての各審査員の順位づけが表3、表4のようになっていたとしよう。
 ここで、まず音楽評論家グループに注目すると、これに決選投票付き多数決を適用すると、acbx という順にランク付けができるであろう。同様に、一流演奏家グループでは、bcxa というランク付けができる。しかるに、ここでもし審査員全体をまとめて決選投票付き多数決を適用すると、xabc という結果になる。つなり、2つの審査員のグループが、共に「b よりも劣り、c よりも劣る」と判定している x が、全体では第1位になってしまうのである。

表1:
審査員Ⅰ審査員Ⅱ審査員Ⅲ審査員Ⅳ審査員Ⅴ
1位aayyb
2位bbbbu
3位uuuua
4位yyaay

表2:
審査員Ⅰ審査員Ⅱ審査員Ⅲ審査員Ⅳ審査員Ⅴ
1位aayyb
2位bbbbu
3位uuuuy
4位yyaaa

表3:音楽コンクールの順位づけ
演奏家Ⅰ演奏家Ⅱ演奏家Ⅲ演奏家Ⅳ
1位aaax
2位ccca
3位bbbb
4位xxxc

表4:音楽コンクールの順位づけ
演奏家Ⅰ演奏家Ⅱ演奏家Ⅲ演奏家Ⅳ演奏家Ⅴ
1位xxbbc
2位bbcca
3位ccxxb
4位aaaax


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