2019年5月4日土曜日

投票のパラドックス(資料4)

慶応大学総合政策学部2018「小論文」より
《資料4》

 IIA公理(注1)は極めて自然なものですが、全会一致公理(注2)ほどの説得力はありません。例えば、次の2つの選考の組を考えてみましょう。各表が1つの選考の組を表しており、各表では各人の選好について、上から順に最も望ましいものから並んでいます。

表1:
個人Ⅰ個人Ⅱ個人Ⅲ個人Ⅳ
1位xxaa
2位aabb
3位bbyy
4位yyxx

そして

表2:
個人Ⅰ個人Ⅱ個人Ⅲ個人Ⅳ
1位aayy
2位bbaa
3位xxbb
4位yyxx

 どちらの選好の組でも x と y の間の上下関係は同じです。個人ⅠとⅡは共に x を y より好み、個人ⅢとⅣは y を x より好んでいます。したがって、IIA公理に従えば、一方の選好の組で x を y より社会的に好むとするならば、もう一方の組でも x を y より社会的に好み、逆ならば逆となるはずです。しかし、この結果はあまりうまくいかないようです。表1の選好の組では x を y より好む2人の個人は x を第1位、y を第4位にしています。それに対して、y を x より好む2人の個人は x と y をともに下の方に置いています。x を y より好む2人の個人は x を y に比べてかなり強く好んでいるのに対して、y を x より好む2人のほうはそれほどでもないわけです。この場合には社会的には x を y より好むとしてしまってもよいという考え方もあり得るでしょう。表2の選好の組ではこの関係が逆転しています。この場合には同様の理由により y を x より好むとしたほうがいいでしょう。しかし、そうするとIIA公理が満たされないことになってしまいます。
 要するに、IIA公理は見かけほど説得力のあるものではないのです、例えば、各個人が成績表の選択肢に順序をつけ、上から順に 4 , 3 , 2 , 1 という点を与えるような場合を考えてみましょう。表1の選好の組では、x の点数は最初の2人にとっては 4 点になるし、次の2人にとっては 1 点となります。同様に y の点数はそれぞれ、1 , 1 , 2 , 2 となります。これらの点数を足し合わせると、最初の選好の組では x が y よりも高得点となり、表2の選考の組ではそれが逆転することになります。

(注1)無関係な選択肢からの独立性(IIA)[IIA は Independence of Irrelevant Alternative]:ある特定の選択肢 x , y に関する社会的選好は個人の x , y に関する選好にのみ依存する。
(注2)全会一致制:もし全ての人が y より x を好むのであれば、社会もそうでなくてはならない。


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