2019年8月29日木曜日

2でやめるな、3までやれ、4はいらん

 新学期になって初めの3時間で「パスカルの三角形2項定理3項定理(多項定理)」と授業を進めた。そして3時間目の終わりに次の話をした。



 2項定理で満足するな。2項定理も十分に難しいが、3項定理までしっかり練習しよう。そして3項定理が使えるようになれば、4項定理も5項定理も形はほとんど同じだから、実は4項定理や5項定理は練習しなくてよい。
 これはいろんな場面で言えることなのだが、2でやめたら勿体無い。2では一般化できないからだ。でも、3までやれば一般化できる。そこまでやれば4も5も同じだから、実は4や5はやる必要が無いのだ。
 つまり、言いたいのはこういうこと。「2でやめるな、3までやれ、4はいらん」。高校数学に関連する範囲で、他の例を示そう。

○ 2次関数で終わるな。3次関数までやれ。そうすれば4次関数でも5次関数でも扱える。
○ 2変数 y=f(x) で終わるな。3変数 z=f(x , y) までやれ。そうすれば変数が増えても対応できる。
○ 平面図形(2次元)で満足するな。空間図形(3次元)までやれ。そうすればn次元がわかる。

 さらに、これは数学に限った話ではない。これはもう「普遍的な真実」と言っても良いくらいだ。他の例を挙げよう。

○ ババ抜きは3人以上でやれ
 2人でババ抜きしてもつまらない。どちらががババを持っているか、相手がどんなカードを持っているかを、お互いに全部わかっているからだ。
 1人でババ抜きしたら、もっとつまらないぞ。配ったカードは全部自分のところに来て、同じ数字のペアを順に捨てていくと、最後にババが残って自分の負け。配る前から結果は全て見えている。
 でも、3人でやれば途端に面白くなる。みんながしらばっくれていれば、誰がババを持っているか、何のカードが動いたか、カードの組ができて捨てられるか否か、そんなことが一切わからない。
 そして、ここが大事な点だが、その面白さは4人になっても5人になっても維持される。2人と3人ではまるで違うが、3人以上ではほとんど変わらないのである。

○ ドミノ倒しの原理
 ドミノ倒しという話からには、ドミノは3枚以上必要だ。1枚ではドミノ倒しとは言わない。「何かがバタンと倒れた」、それだけの話である。
 2枚でもドミノ倒しとは言えないだろう。実際、2枚を倒すのは簡単だ。大きさがバラバラでも、距離や向きが適当でも、大体倒れる。
 ところが3枚になると、途端に難しくなるのである。大きさをそろえ、等間隔に平行に置かなければならない。鍵は真ん中のパイである。真ん中のパイは 「前のパイに押されて自らが倒れながら、次のパイを押して倒す」。つまり、真ん中のパイがドミノ倒しをリレーしていくのである。
 そして3枚でうまくいけば、4枚でも5枚でもうまくいく。理論的には体育館いっぱいに並べたドミノを順に全部倒すこともできる。

○ 三角関係が人間関係の基本形
 人間関係も同じ。1人ではコミニュケーション取れない。2人ではコミニュケーション取れるが、固定化する。つまり、発展しない。ところが、3人いると途端に流動的になる。2人が仲良くなって1人が取り残されるとか、2人の関係がおかしくなったときにもう1人がとりなすとか、ちょっとしたことで距離感がコロコロ変わる。
 そして3人でうまくやれれば、4人でも5人でも100人の集団でも同じやり方を適用できる。
 2人で仲良くしているだけでは発展しない。固定化して、男女関係ならやがて飽きがくる。一方、三角関係は最初は波乱があっても、やがて四角関係、五角関係へと発展して、最後には円関係になってまぁるく収まるのである。

 話を元に戻そう。言いたいのは「2でやめるな、3までやれ、4はいらん」ということ。「2では一般化できないが、3までやれば一般化できる」からである。だから「2項定理で満足するな。3項定理まで勉強しろ。多項定理なんかやらなくていいぞ」と、言いたいのはそういうことだ。

 勢いに乗って、小学校の算数から「2でやめるな、3までやれ、4はいらん」の例を挙げよう。

○ 掛け算も3桁までやれ
 3桁の掛け算をするときの、十の位を見てみよう。十の位は一の位から繰り上がりを受け取りながら、百の位に繰り上がりを送る。これは、ドミノ倒しの真ん中のパイと同じで、繰り上がりをリレーするわけだ。
 ところが2桁の掛け算では、一の位は繰り上がりを送るだけで、十の位は繰り上がりを受け取るだけ。繰り上がりのリレーが起きないわけである。だから、2桁の掛け算ができたからと言って、3桁の掛け算ができるとは限らない。
 3桁の掛け算ができれば、4桁でも5桁でも大丈夫。3桁のときと同じ操作を繰り返せば良いからだ。

○ 3桁×3桁までやれば十分
 とは言ったものの、3桁×2桁の掛け算ではまだ不十分だ。3桁×2桁の掛け算をする場合、筆算途中の式で左に1つ数字をズラして書く。だが、それができても、3桁×3桁の掛け算ができるとは限らない。
 3桁同士の掛け算をすれば、1回ごとに1つずつズラすことになるので、その経験があれば、桁数がさらに増えても掛け算できる。

 (3桁×2桁)   (3桁×3桁)
         
   ×      × 
         
        
         ←2桁の掛け算しか知らないと、
            ここをどうしたら良いかが分からない。


○ 足し算でも3つの数を足せ
 2つの数を足すとき、繰り上がりがあるとしても1だけ。でも3つの数を足すと、繰り上がりの数が1のときもあれば2のときもある。
 2数の足し算だけをやっていては、いつも「繰り上がりは1」とやりかねない。でも3数の足し算をやれば「下の位を足したときの最上位の数を繰り上げれば良い」ことが分かって、4数の足し算でも5数の足し算でもできるようになる。

 数学の鍵は「3」。一般化、抽象化、変化、いずれにも「3」が大きく関わる。
 余談だが、記事中の数学の例3つ、他の例3つ、算数の例3つと、とことん「3」にこだわった。


◇ パスカルの三角形の裏事情 (→ https://omori55.blogspot.com/2019/03/blog-post_463.html )
◇ 2項定理の練習問題(1) (→ https://omori55.blogspot.com/2019/08/blog-post_29.html )
◇ 2項定理の練習問題(2) (→ https://omori55.blogspot.com/2019/08/blog-post_96.html )
◇ 3項定理と練習問題    (→ https://omori55.blogspot.com/2019/08/blog-post_6.html )

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