2020年4月30日木曜日

大学入試改革元年が面白いことになりそうだ

 今年度の高校3年生は、大学入試改革の初年度の学年だ。大学入試改革とは「センター試験」が「大学入学共通テスト」に変わるであるとか、その中で「マークシート方式」だけではなくて「記述式」を含めるであるとか、英語では「読む・聞く」だけではなくて「書く・話す」を含む4技能を評価するであるとか、そんなことが当初言われた大学入試にまつわる改革のことである。
 ところが「大学入学共通テスト」という名称だけは生き残ったものの、「記述式」も「書く・話す」も見送りとなって、これまでのセンター試験とほとんど変わらないところに落ち着いたように見えた。
 ところで、そもそもの大学入試改革は「センター試験が変わる」だけではなくて、これまで「知識・技能」だけを問うていたものを、これからは「思考力・判断力・表現力」や「主体性・多様性・協働性」をも問うという根本的な改革のはずだったわけである。それらが丸ごと振り出しに戻った感があった。こうしてこれまでの大学入試と「ほとんど何も変わらないじゃないか」と皆が思っていたところだった。

 ところが、である。この度のコロナ騒動で、結果として大学入試が大きく変わるかもしれないぞ。
 というのは、次の冬にコロナの第3波、第4波がやってくる可能性はだいぶ高い。実はこの春の大学受験にコロナはほとんど影響しなかった。コロナの影響がテキメンに出るのは、次の受験だ。そうなると、
◇ 次の冬に受験会場で受験できるのか?
◇ オンライン受験? オンライン面接?
◇ 民間業者の技能検定を利用する?
これらがすべて現実味を帯びてくる。これまでの大学入試と「ほとんど何も変わらない」のかと思いきや、結果として「大改革」になっちゃうのかもしれないのだ。そしてそうなると、改革の向かう先は「思考力・判断力・表現力」と「主体性・多様性・協働性」にきっとなる。
 こんな形で「大学入試改革元年」を迎えるとは予想外でしたね。ワクワクしますね。


◇ 入試が入活に変わる 
◇ これからの大学入試を攻略する鍵 
◇ コロナ対策で現金支給が切り拓くベーシック・インカムな未来 



《以下、Facebook上で僕がしたコメント》
◇ 学校に邪魔されず、自分のペースでやれるから、むしろラッキーだね。
◇ 勉強は半分にして、残り半分は他のことやれ。
  Web上に期間限定無料のものなど、今だからこその面白いコンテンツがいろいろあるよ。
◇ この春の大学受験にコロナはほとんど影響しなかった。
  コロナの影響がテキメンに出るのは、次の受験だ。
(→ https://www.facebook.com/guamkato/posts/676928483099834

 ここ数日で出てきた「9月入学」について。テレビの議論は「『今年の』学校の始まりが9月になる」ことと「『今後ずっと』学校の始まりが9月になる」こととがごっちゃになっている。前者『今年』については「コロナ次第」なわけで、後者『今後』については「コロナとは別個」に検討するべきだ。
(→ https://www.facebook.com/teranishitakayuki/posts/3304793162899454

2020年4月16日木曜日

両方とも増えたのに平均が減る不思議?

1.正規社員の賃金も非正規社員の賃金も上がったのに、正規・非正規を合わせた全体の平均値は下がった
 ・・・そんなことってあるんだろうか?

2.正規社員の賃金も非正規社員の賃金も10%上がったのに、全体の平均値は10%下がった
 ・・・そんなことってあるんだろうか?

3.正規社員の賃金も非正規社員の賃金も月額1万円上がったのに、全体の平均値は月額1万円下がった
 ・・・そんなことってあるんだろうか?

4.正規社員の賃金が6万円から7万円に、非正規社員の賃金が2万円から3万円にそれぞれ上がったのに、全体の平均値は5万円から4万円に下がった
 ・・・そんなことってあるんだろうか?

1.2.3.4.どれでも良いので、考えてみてください。



あるんです。
 ところで、なぜ似たようなものを4つも並べたのかというと、1.だけでも問いとしては成立しているんですが、具体的な数があった方が考えやすいと思ったからです。数はシミュレーションの道具です。以下では、4.で考えてみます。

A:正規社員の賃金が6万円、非正規社員の賃金が2万円で、全体の平均値は5万円
これが成り立つのは、4人中「3人が正規社員で、1人が非正規社員」の場合。
加重平均を計算すると、(6万×3+2万×1)÷4=5万円 となる。

B:正規社員の賃金が7万円、非正規社員の賃金が3万円で、全体の平均値は4万円
これが成り立つのは、4人中「1人が正規社員で、3人が非正規社員」の場合。
加重平均を計算すると、(7万×1+3万×3)÷4=4万円 となる。

 つまり、正規社員の数が減り、非正規社員の数が増えれば、「正規社員の賃金も非正規社員の賃金も上がったのに、全体の平均値が下がる」ということは十分にありうる話なのです。

 みなさん、騙されないようにしましょう。この話、現実のデータで示せないものかと厚生労働省や総務省統計局のサイトで探してみましたが、適当なのが見つかりませんでした。あしからず。ご存知の方がいらっしゃいましたら、お知らせください。

※ ところで、上のAからBに変わったとき、格差が広がったのか狭まったのかというと、ばらつきの度合いを標準偏差で表すなら、AとBでは標準偏差は同じなんです。だから格差が広がったわけではありません。でも、全体の平均値は下がっていますから、全体として貧しくなったことは間違いないのです。

前年同月比の振る舞い

先日のニュースで言っていました。
○ 2020年3月の訪日外国人旅行者数が前年同月比で93%減になった。
もちろん新型コロナウィルスの影響です。では、ここで【問題】です。
○ もし1年後に訪日外国人旅行者数が元に戻ったとすると、2021年3月の訪日外国人旅行者数は前年同月比で何%増になるでしょうか?
続いて、もう1問。2011年3月にも訪日外国人旅行者数が前年同月比で大幅に減少しました。東日本大震災の影響です。次の空欄に当てはまる数を入れてください。
○ 前年同月比マイナスは2011年3月から〔 〕ヶ月間続き、
  その翌月に前年同月比が急上昇した。

(データを調べなくても、常識で考えればわかります)

  ◇   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 ところで、なぜ「前年同月比」が使われるかと言うと、季節変動がある(季節によって旅行者数が変わる)からですが、前年同月比を異なる月で比べたり、月ごとの推移を見たりすると、一見奇妙なことが起きます。

 訪日外国人旅行者数の実際の数を見る前に、架空の数で説明しましょう。
 ある企業の月ごとの売上額が次表の通りだったとします。何かの事情で2011年3月に売上額が急減しました。そのときの売上額から前年同月比を求めて、グラフにしてみました。


 売上額のグラフを見てわかるように、2011年3月に1回だけ売上が大幅に減って、それ以降は順調に売上が回復しています。これを前年同月比で見ると、12ヶ月連続のマイナスとなり、13ヶ月目に120%の大幅プラスとなりました。前年同月比だと、えてしてこうなってしまうわけです。

 次に、実際の訪日外国人旅行者数を見てみましょう。下のデータは 日本政府観光局 のサイト(→ https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/visitor_trends/ )で公表しているものです。


東日本大震災のころを見ると、前年同月比は2011年3月から12ヶ月連続でマイナスとなり、その翌月の2012年3月には前年同月比で 677÷353=1.92 すなわち 92% の大幅プラスになっています。考えてみれば、当たり前のことですが。
 次に直近の2020年3月を見てみると、前年同月比で 194÷2760=0.07倍に、すなわち 93% の大幅ダウンになっています。この先どうなるかはわかりませんが、おそらく東日本大震災のときと同じように「前年同月比は12ヶ月連続でマイナスとなり、その翌月に一転して前年同月比で劇的にプラス」となることでしょう。
 さて2021年3月にどれくらい劇的にプラスになるのか、仮にその時点での訪日外国人旅行者数が元の水準 2,760千人 に戻るとして、試しに計算してみましょう。この場合、93%減から元に戻るからと言って、93%増になるわけではありませんよ。きちんと計算してみると、前年同月比で 2760÷194=14.2 倍に、すなわち 1320%プラスということになります(「7%」という値から計算すると、100÷7=14.3 より 1330%プラスとなります)。実際には毎月少しずつ回復するのでしょうけれど、前年同月比で見ると、そんな風に見えるわけです。「前年同月比のマジック」ですね。

2020年4月9日木曜日

倍々ゲームのリアリティー

1日で 10% 増えるなら、1.17=1.95 より7日で倍増する。
1日で 20% 増えるなら、1.24=2.07 より4日で  〃
1日で 30% 増えるなら、1.33=2.20 より3日で  〃
1日で 40% 増えるなら、1.42=1.96 より2日で  〃

a 日で倍増するなら、2a 日で 4 倍に、
    〃     3a 日で 8 倍に、
    〃     4a 日で 16 倍になり、
    〃     10a 日で 1,000 倍を超え、
    〃     20a 日で 1,000,000 倍を超える。

机上の空論かと思いきや、世界で現実に起きている。
「3日で倍増、2週間で 30 倍、1ヶ月で 1,000 倍」・・・これくらいが普通みたい。


《関連記事》
◇ 情報伝達をモデル化して、エクセルでシミュレーションする
◇ 倍々ゲームの期待値
◇ 原始から宇宙までを1つの数直線に表してみよう

2020年4月1日水曜日

教科書を読もう

 年度末に休校が続いて、新年度の始まりも見通せない状況にあって、私の勤務校ではオンラインの会議を試したり、オンラインの授業を検討したりしているところです。
 さて、オンラインで授業をすることになった場合、具体的にどんな風にやれるでしょうか。私が思うに、「教科書を読もう」を基本に置くのが良いのではないでしょうか。
 なぜなら、先生たちがいきなり売れっ子ユーチューバーのようになれそうにないというのもありますが、もっと積極的な理由として、
 ◇ どの教科であれ、「教科書を読めば分かる」ように教科書が作られている。
 ◇ 「教科書を読む」という学習法は、将来においても頻繁に使うであろう学習法である。
 ◇ 普段はあまりやっていない学習法だが、対面授業ができない今こそやってみる価値がある。
と思うからです。
 考えてみると、私たちがいま何か(例えばプログラミング言語とか統計とか)を学ぼうとする場合、「テキストをしっかり読む」という場面があるはずです。本を買ってきて、頭から順番に丁寧に、分からなかったら前に戻ったりしながらじっくりと読み進める、これが学びの姿の1つです。典型的な形です。
 教科書出版会社におもねるわけではありませんが、「読めばわかる」ように教科書は作られているわけですし、生涯学習という文脈で考えても、高校生が「読みながら理解する」という学び方を習得することはとても大事なことだと思うのです。
 でも、実は私もそうなのですが、普段の授業では「教科書を読め」という指導をしていないわけです。そして生徒の側でも「教科書を読む」ことをしなくなっている。教科書は読むためのものというより、覚えるべき事柄が並んでいるもの、公式と練習問題が載っているもの、教員も生徒も教科書をそのように捉えている、これが現実なのではないでしょうか。
 でも、対面授業ができない今だからこそ、教科書をうまく使いたい。うまくというより、本来の使い方をすればいい。まずは、教科書を読もう。そしてその上で、課題をやるなり、ユーチューブ動画を見るなりしよう。もしこれから休校期間が延びたりしたら、こういう形で進めれば良いんじゃないかと私は考えている次第です。

 もう一つ、オンライン会議を経験して思ったこと。生徒との間で必要なのは、オンラインの授業より、オンラインでの会話だろうと。オンラインで一方通行の授業をやるより、オンライン会議の機能を使って、1対1の面談、グループでの対話・議論・お喋りすることがいま必要なんじゃないかと感じています。
 緊急事態はチャンスでもありそうですね。