2019年4月30日火曜日

場合の数の数え方(P,C,π,H の使い分け)

 場合の数を数えるための公式4つ。これら4種が「何を区別して、何を区別していないか」を自覚して、これら4種を比較しながら使い分けたい。


 まず、同じことは「異なる n 個の中から r 個取り出す」という点。「異なる」という部分がポイントで、つまり P であれ C であれ π であれ H であれ「n 個のものを区別している」ということ。この点をまず確認しておこう。
 その上で、r 個取り出す際に「重複不可=同じものを何度も取り出してはいけない」のか「重複可=同じものを何度も取り出して良い」のかの違いで2種類に分けられる。また、また取り出す「順番を区別する」のか「しない」のかの違いで、こちらの方でも2種類に分けられる。それらの組み合わせで、全部で4種類になる。
 それぞれ順列 nPr ,組合せ nCr ,重複順列 nπr ,重複組合せ nHr と呼ぶ。



 このうち順列 nPr と組合せ nCr については教科書にも載っているし、練習もしているだろうからここでは説明せずに、重複順列 nπr と重複組合せ nHr について簡単に説明しよう。

◇ 重複順列 nπr
例:大中小3個のサイコロを投げて出る目の場合の数は、6π3=63=216通り
一般に、異なる n 個の中から重複を許して r 個取り出す(順番を区別する)
 → nπr=nr
◇ 重複組合せ nHr
例:x+y+z+w=10 を満たす負でない整数解の個数は?
  ○○○│○○○○│○│○○ ←→ (x , y , z , w)=(3 , 4 , 1 , 2)
  ││○○○○○○○○○○│ ←→ (x , y , z , w)=(0 , 0 , 10 , 0)
              :
と考えれば1:1に対応するから、○10個と棒3本を並べる場合の数を数えればよい。 4H1013C1013C3= 286 個
一般に、異なる n 個の中から重複を許して r 個取り出す(順番を区別しない)
 → r 個の物を n 種類に分ける(規則正しく並べよう)  
 → r 個の○と n-1 本の棒を1列に並べる
 → nHrn+r-1Cr
では、次の問題をやってみよう。



【問】サイコロを3回投げて出た目の数を順に a , b , c とする。次の確率は?
  (1) a , b , c がすべて異なる。
  (2) a<b<c となる。
  (3) a ≦ b ≦ c となる。



《答え》
 (1) 6P36π3=6・5・4/635/9
 (2) 6C36π3=6・5・4/3!・635/54
 (3) 6H36π38C3/637/27

2019年4月27日土曜日

データ送受信の誤り訂正の仕組み(東大入試より)

(東大後期・総合科目Ⅱ2009)

 コンピュータで扱うデータは、2つの数字 0,1 からなる列として表されることが多い。数字 0,1 からなる長さ n の列を、送信者Aから受信者Bに転送することを考える。情報を転送する際にノイズが入るために、0 が 1 に、1 が 0 に、それぞれ確率 p で入れ替わって伝わる。ここで、p は 0 ≦ p<1 を満たす定数である。
 例えば、長さ 8 の数字の列 01001100 が
   11001100
と伝わる確率は、1番目の数字のみが入れ替わっているので、p(1-p)7 である。また、01001100 が
   00011100
と伝わる確率は、2番目と4番目の数字が入れ替わっているので、p2(1-p)6 である。

(1) 数字 0,1 からなる長さ n の文字列を1回送るとき、誤って伝わる個数が偶数個である確率を P(n) とおく。ただし、誤りがない場合は 0 個の誤りがあったと考えられる。P(n+1) を p と P(n) を用いて表せ。

(2) P(n) を p と n を用いて表せ。

 データが誤って伝わる可能性を小さくするために、データを表す 0,1 からなる n 個の数字の後に、データの中に 1 が奇数個あるときは 1 を、偶数個あるときは 0 を付け加えて、全部で n+1 個の数字の列をAからBに送る。この末尾に付け加える数字をパリティビットとよぶ。受信者Bは、パリティビットが、受け取ったデータの n 個の数字の中の 1 の個数と合っていれば、情報が正しく送られたと判断してそのまま情報を受け取る。合っていなければ、情報が誤って送られたと判断して、Aに再度同じ情報、つまり n 個の数字の列とパリティビットを送ってもらう。この手続きを、受信者Bが、正しくデータを受信できたと判断するまで繰り返す。ただし、パリティビットも、他の n 個の数字と同様に確率 p で入れ替わって伝わる。

(3) 送信者Aが、n 個の数字からなるデータとパリティビットをあわせて n+1 個の数字からなる列を1回目に送るとき、受信者BがAに再送を要求する確率を p と n を用いて表せ。

(4) Bがデータを正しく受信したと判断して通信が終了するまでに、Aが送信する数字の個数の期待値を p と n を用いて表せ。



《解答》
(1) P(n+1)=P(n)×(1-p)+{1-P(n)}×p=(1-2p)P(n)+p
      ↓ 漸化式を解く
(2) P(n)={ (1-2p)n+1}/2
      ↓ 意味がわかればすぐ
(3) 1-P(n+1)={1-(1-2p)n+1}/2
      ↓ 数Ⅲ範囲
(4) k回目に通信が終了する確率は{1-P(n+1)}k-1×P(n+1)
  求める期待値はΣk(n+1){1-P(n+1)}k-1×P(n+1)
         =  ・・・(中略)・・・
         =2(n+1)/{ (1-2p)n+1+1}

人間圏

 「◯◯圏」という言葉がある。「大気圏」、「文化圏」のように使う。
 「圏」というとき、他の「圏」との間でいろんなモノのやり取りがある。物質や情報や人やエネルギーなどの。よし、ここで「人間圏」という言葉を作ろう。とりあえず図解してみた。


 その昔、人間は生物圏の一部だった。このあり様を「縄文型」と呼ぶ。生物圏と大気圏や大地との間でモノのやり取りがあって、人間はその一部を担っているにすぎなかった。
 やがて人間は「人間圏」として生物圏から独立した。このあり様を「弥生型」と呼ぶ。そのときの人間圏の特徴は、生物圏から人間圏に多くの植物を取り込んだことだ。人間は森を切り開いて田畑を作り、木を切って家を建て、木を燃やして火を利用し、家畜に草を食べさせた。そして砂漠化が始まった。
 あるときから人間圏は急拡大した。きっかけは産業革命である。このあり様を「現代型」と呼ぶ。この型の特徴は、大地から人間圏に多くの地下資源を取り込んだことだ。同時に人間圏から大気圏に大量の二酸化炭素を送り出した。そして、地球温暖化が始まった。
 図に書き出したものがモノのやり取りのすべてではない。象徴的なものだけを書いたつもり。この話、オチはない。

2019年4月23日火曜日

★ 結論を言わない証明問題

 「仮説→検証」が科学的態度。数学者だって「予想→証明」に人生をかける。それなのに、出題者が結論を言っちゃっていいんですか?
 「成り立つ」のが分かっているのを証明するのって、つまらなくないですか? 「成り立つ」のが分かっているのに証明しろって、性格悪くないですか? 「成り立つ」と言い切っちゃって、生徒の楽しみを奪ってませんか?

 結論を書いた上で「さぁ証明しろ」だなんて、生徒の側からすれば、それは仮説でもなければ予想でもない。それは絶対に正しいものだ。そうでなければ、出題ミスということになる。疑う気持ちが微塵も無い中で証明するのって、モチベーションとしておかしくないか? 正しいかどうかわからないからこそ、証明する必然性があるんじゃないのか?
 そこで私は、結論(またはその一部)を空欄にして出題してみた。生徒たちに、まず予想を立てて、続いて自らそれを証明してもらおうというわけだ。もちろん空欄に入るものは一意に決まるように作ってある。そうすると、がぜん正答率が下がるのである。ものによっては、ボロボロになる。

  ◇ 合同な三角形を探せ 
  ◇ 合同か? (1) (2) 
  ◇ 円周率とは? 
  ◇ どんな四角形になるのか? 

  ◇ 同一円周上にある4点を探せ 
  ◇ 3直線は1点で交わるのか? 
  ◇ 角の2等分線を3本引くと。。。 

  ◇ 2直線の関係は? 
  ◇ 四角形の頂点からの距離の和が最小になる点はどこ? 
  ◇ 「最大の素数はない」のか? 

 でも、そうすることで「仮説・予想を立てる」という数学の最も楽しい部分を生徒たちに経験させられる。そしてそれが証明できれば、そこに至ってようやく彼はそれが正しいことを確信する。証明問題は本来こうあるべきだろう。

★ 女と男の心理学

☆ 女の脳 と 男の脳
(→ https://omori55.blogspot.com/2019/03/blog-post_85.html )

  ◇ 女の子の育ち方、男の育ち方
  ◇ 数学嫌いの女の子、読書嫌いの男の子
  ◇ エピソード
    ├ なぜ靴下をテーブルの上に置くのか?
    ├ 右ってどっち?
    └ お出かけ前の夫婦のやり取り


☆ 花咲く季節は植物の発情期
(→ https://omori55.blogspot.com/2019/03/blog-post_28.html )

  ◇ 花咲く季節は植物の発情期
  ◇ かぐや姫の結婚の条件
  ◇ 女が男を野に放った        など


☆ 昔話にみる日本人の心
(→ https://omori555.blogspot.com/2019/03/blog-post_49.html )

  ◇ 浦島太郎の不倫騒動
   かちかち山の報復合戦
   こぶとり爺さんの不条理

☆ エクセルの限界に挑む

 コンピュータは突き詰めれば電気のオン・オフ(電気が流れているか、いないか)で制御しています(ただし量子コンピュータについてはその限りでない)。つまり2進法。もちろん、エクセルもです。そして、それゆえの限界もあります。コンピュータの宿命です。
 では、ここでエクセルの計算の仕方を確認しながら、その限界に挑んでみましょう。

  ◇ エクセルはどこまで正確に計算できるか? 
  ◇ エクセルはどこまで大きな数、細かい数を扱えるか? 
  ◇ 浮動小数点形式はエクセルでこそ力を発揮する 
  ◇ エクセルに計算ミスさせろ 
  ◇ エクセルはとことん2進法で計算する 
  → 練習問題 

 私たちはたまたま10進法に慣れ親しんでいますが、コンピュータとうまく付き合うには2進法にも慣れ親しんでおきましょう。その感覚は、論理式 でも 指数・対数 でも役立ちます。


 →  →  →  →  → 

核のゴミの捨て方

 核のゴミ(放射性廃棄物)を捨てるための条件3つ。
◇ 冷やし続ける
◇ 人里から遠ざける
◇ 悪意のある者の手に渡らないようにする
さて、どうしたらいいんだろう?
 答えは、深海に捨てればいい のだ。これがベターな選択であろう。他にどんな方法があるというんだ!?
 人間社会から遠いところで、悪意のある者の手の届かない場所で、確実に冷やすのにこれよりマシな方法は無いだろう。

◎ デジタルな論理式

 論理式は「真か偽か」の2値で判断します。その中間はありません。まさにデジタル仕様といえるでしょう。
 さて、高校情報科で「デジタル計算」をやった後に「論理式」の基礎を学習するための教材を作りました。
 カリキュラム「デジタル計算」で扱うのは「2進法・デジタル変換の仕組み・ビットとバイト・容量計算」などです。「0/1 ⇔ on/off ⇔ 真/偽」はしょっちゅう出てきます。ですから、スムーズに入っていけそうです。

 授業時間数は3時間。その内容を6つの記事に分けて書きました。

授業記事内容
1論理式の真理値を定義するand , or , not , if の定義 / 日常言語とのズレ
トートロジー と 矛盾式真理表に書き込みながら真偽を判断する
2正しい導出 と 誤った導出正しい導出とはトートロジーのことである
論理式の同値関係ド・モルガンの法則 / 逆・裏・対偶
3論理式はデジタル仕様電気回路 / エクセル関数 / キーワード検索
主張の妥当性を検証する日常言語による主張を論理式に直し、真偽判定

<練習問題>
1枚のカード問題  4枚のカード問題  不思議の国の論理学 
真理表の限界
慶応SFC2004慶応SFC2005反証可能性

 ここではある命題や主張の真偽を判断するために「真理表」に 0 と 1 を書き込みながら分析します。真理表で分析するということは、
  • 原子式(P ⇒ Q というときの P , Q のこと)は3つが限度
         (4つ以上だと、表がやけに長くなる)
  • 「すべて ∀」や「ある ∃」は扱えない
        (それを扱うためには、やり方をまるで変えなきゃいけない)
などの制約がありますから、そんなに複雑なものは扱えません。
 でも、論理学の基礎ということではちょうどいいレベルでしょう。また、頭からっぽで 0 と 1 を書き込んでいけばいいので、実技科目としてぴったりといえるかもしれません。

不思議の国の論理学

「不思議の国のアリスの著者ルイス・キャロルは大学で数学を教える数学者でした。彼の著作には論理学を話題にしたものがいくつかあります。1つ紹介しましょう。
 アンクル・トムとアンクル・ジョーが床屋に行こうとしています。床屋にはカーとアレンとブラウンの3人の店員がいます。3人のうち腕が確かなのはカーだけなので、アンクル・トムとアンクル・ジョーはカーが店にいることを期待しています。
 アンクル・ジョーが言います。「カーが外出しているなら、もしアレンもまた外出しているとすれば、ブラウンは店にいる (A)」と。アンクル・トムもそれを認めました。それを認めなければ、店に店員が誰もいなくなってしまうからです。
 アンクル・ジョーが続けます。「アレンが外出しているなら、ブラウンは外出している (B)」と。 アンクル・トムはそれも認めました。アレンは体をこわしていて、一人で外出するのが難しいからです。
 さて、以上のことからアンクル・ジョーは「カーは店にいる (C)」と結論づけました。アンクル・ジョーの考え方は「もしカーが外出しているなら、『アレンが外出しているなら、ブラウンは店にいる』と『アレンが外出しているなら、ブラウンは外出している』が同時に成り立たなければならないことになるが、これは矛盾である」ということです。そして背理法を使って「カーは店にいる」と主張したわけです。
 アンクル・トムは反論しました。アンクル・トムは、2つの仮定を認めたとして、そこから導けることは「カーとアレンが両方いっしょに外出することはありえない (D)」ということであって、「カーが店にいる」という結論にはならないと主張しました。
 さて、アンクル・トムとアンクル・ジョーの議論はどちらが正しいのでしょうか? どちらが間違っているのでしょうか?
では、ここで 【問題】です。上の文章から条件 P , Q , R  を設定し、前提 (A) と (B) ならびにアンクル・ジョーの結論 (C) とアンクル・トムの結論 (D) を論理式で表し、真理表を作って、2人の導出の正誤を判断しなさい。



《解答例 》
P :   カーが外出している    
Q :   アレンが外出している    
R :   ブラウンが外出している    とすると、 
前提 (A):  P ⇒ (Q ⇒ ¬R)   
前提 (B):  Q ⇒ R          
アンクル・ジョーの結論 (C) :    ¬P          
アンクル・トムの結論 (D)   :   ¬(P∧Q)      となる。 


※ 文章全体をよく読めば、前提 (A) は  P ⇒ (Q ⇒ ¬R) となるはずなのだが、
  下線部 (A) だけからは   P∧Q ⇒ ¬R   と読めなくもない。
  だから、それも良しとしよう。その場合も導出の正誤は上と同じになる。

2019年4月22日月曜日

トートロジー3種

 次の3つの論理式はトートロジー(=恒真式=絶対に正しいこと)である。



◇ (P∧¬P)⇒ Q

 P  Q ¬PP∧¬P(P∧¬P)⇒ Q

この式「(P∧¬P)⇒ Q 」の意味するところは、
「矛盾を仮定すれば、好き放題何でも言える」ということ。
名付けて、言いたい放題の論理式

(例)オレが男であり かつ 女である(=男でない)ならば、火星人はいる。



◇ Q ⇒(P⇒Q)

 P  Q P⇒QQ ⇒(P⇒Q)
1

この式「 Q ⇒(P⇒Q)」の意味するところは、
「正しいことに、どんな理由付けをしてもよい」ということ。
名付けて、勝手に理由づけ論法

(例)なぜ「1+1=2」(←真)かと言うと、 その訳は「オレが天才だから」なんだよ。



◇ ¬P ⇒(P⇒Q)

 P  Q ¬PP⇒Q¬P ⇒(P⇒Q)

この式「 ¬P ⇒(P⇒Q)」の意味するところは、
「事実に反することから、何を導いてもよい」ということ。
名付けて、夢見る論理式

(例)オレが女(←偽)ならば、(オレは男だから←真)世界はオレのものだ。

☆ 確率名人への道

 確率名人になるための練習問題を5題取り上げます。【1】は簡単でしょうけれど、私はここで「場合の数の数え方」と「確率の数え方の違い」が実はまるで違うことを明らかにします。ですから話をしっかり聞いてください。
 その後で練習問題をあと4題出します。それぞれ設問はシンプルです。でも、出来そうで出来ない問題ばかりだと思います。実際なかなか正解にたどり着かないでしょう。なんらかの値は出るでしょうけれど、解いたあなた自身も合っているという確信を持てないでしょう。いや、出来たと思っても、答え合わせをすると間違っている場合が多いと思います。
 場合の数・確率の問題は意外と難しいのです。理由は単純。基礎が甘いからです。具体的に言うと「何を区別して、何を区別しないか」の自覚が足りないからです。でも、安心してください。この5題をやれば、確率音痴だったあなたが確率名人になります。



【1】 1円玉、10円玉、100円玉が3枚ずつ、全部で9枚ある。この中から3枚とる。
  (1) 異なる金額は全部で何通りあるか。
  (2) 3枚の合計金額が111円になる確率を求めよ。

【2】ひもが3本ある。両端6個を2つずつに分けて3回結ぶとき、大きな1つの輪ができる確率を求めよ。
(名古屋市大 2000年)

【3】1組のトランプの絵札(ジャック、クイーン、キング)の合計12枚の中から任意に4枚の札を選ぶとき、ジャック、クイーン、キングの札がそれぞれ少なくとも1枚選ばれる確率を求めよ。
(北海学園大 2002年)

【4】四面体ABCDの各辺はそれぞれ確率 1/2 で電流を通すものとする。
  このとき、頂点Aから頂点Bに電流が流れる確率を求めよ。
  ただし、各辺が電流を通すか通さないかは独立で、辺以外は電流を通さないものとする。
(東京大 1999年)

【5】縦横の長さの比が1:3の長方形の板がある。この板を両面とも下図のように線で区切り、できた6つの正方形のそれぞれに赤または白の色を塗ることにする。塗り終えた板において回転や裏返しで同じ塗り方になるものは区別しないとするとき、塗り方は何通りあるか求めよ。ただし、各正方形には1つの色を塗るものとする。
(東北大 2014年)



《解説・解答》は以下をご覧ください。

【1】 場合の数の数え方と確率の数え方の違い 
【2】 ひもを結ぶ問題、前半戦 
        └──→ 後半戦
【3】 だまされやすい確率 
【4】 気づきにくいダブりとモレ 
【5】 数学でアクティブ・ラーニング例 

場合の数の数え方 と 確率の数え方 の違い

 「場合の数を求めるときの数え方」と「確率を求めるときの数え方」は実は全然違います。この点を分かっていないと、確率の問題でしょっちゅう間違えることになります。教える方はそのことを生徒にきちんと伝えないと、生徒たちが出来るようになりません。
 どこが違うかというと、「区別するか、しないか」という点。そしてそこを自覚的にやらないと、なかなか正解に行き着かないのです。
 それを実感するための問題を3題用意しました。【1】は基本問題。ここでくどくどと説明します。その後で練習問題を1つ出します。トライしてください。



【1】 1円玉、10円玉、100円玉が3枚ずつ、全部で9枚ある。この中から3枚とる。

  (1) 異なる金額は全部で何通りあるか。

  (2) 3枚の合計金額が111円になる確率を求めよ。



【1】(1) ひたすら全部書き出せば良い。
3円 , 12円 , 21円 , 30円 , 102円 , 111円 , 120円 , 201円 , 210円 , 300円の 10通り
ところで(1)では「1円玉3枚を区別していない」ことに注目しよう。ここでは金額が問題になっているのだから、金額が異なるコインは区別するが、金額が同じコインは区別しないで数える。当たり前と思うだろうが、確認しておく。

(2) まず典型的な間違いは「(1)の10通りのうち111円になるのは1通りだから、1/10」というもの(実際そのような誤答が多い。上のように(1)に続けると、誤答率がアップする)。なぜ間違いかというと、(1)の10通りのものが起きる頻度が等しくないから。
 ここで確率の計算法を確認しよう。
起こりうるすべての場合の数が n 通りで、そのうちある事柄が起きる場合の数が k 通りとする。
この n 通りの起き方が「同様に確からしい」とき、その事柄が起きる確率は k/n
つまり(1)の10通りの起き方が「同様に確からしい」わけではないので、k/n とやっても正しい確率は求められないということだ。
 では、どうするか? 「同様に確からしい」が守られるように数えるしかないわけだ。
 どうやって? 「同じ金額のコインを区別して数える」ことで、その条件を満たすのだ。
 ここで(2)の正解を示そう。正解は、
3×3×3/9C3= 9/28  ・・・(A)
さて、正解が出たからといってまだ話は終わらない。最初に言ったように「何を区別して、何を区別しなかったのか」を自覚的に振り返ってみよう。
 (A)の分母(起こりうるすべての場合の数)を見てみよう。9C3 の 9 は何を区別したのかしなかったのか、C は何を区別したのかしなかったのか、言えるかな?
 ここで nCr の意味を確認しよう。
異なる n 個の中から(重複を許さずに) r 個取り出すが、取り出す順番を区別しない場合の数
すなわち、「9」と書いた時点であなたは「9個のものを区別した」ということだ。つまり9枚のコインを全部区別しているということだ。金額の異なるコインはもちろんのこと、金額が同じコインであっても「便宜上区別して数えた」ということである。
 また「C」と書いた時点であなたは「取り出す順番を区別しなかった」ということだ。つまり3枚のコインをガバっと一発で取ったようなイメージだ。実際には1枚ずつ3回に分けて取ったのかもしれないが、「便宜上同時に取ったものとして数えた」ということである。

 細かい話だと思うだろうか。でも、この点をクリアにしておかないと、場合の数・確率の問題で正しい値が出せないのだ。確率が苦手な人は、その点がクリアになっていないからなのだ。この点さえクリアにすれば、あなたは確率が得意になる。だから、私は今くどくど語っているのである。
 話を続けよう。設問(2)で「なぜコインを全部区別したのか? なぜ取り出す順番を区別しなかったのか?」
 その訳は、コインを区別しないと「同様に確からしい」が守られないからだ。そこが崩れると正しい確率が求められないので、この問題ではコインを区別することは必須なのである。
 一方、取り出す順番は区別しなくても「同様に確からしい」が守られる。ならば、取り出す順番を区別しないで数えた方が場合の数が少なくて済む。だから、取り出す順番を区別しない方が計算が楽なのである。もし「取り出す順番を区別する」なら順列 9P3=504 通りになるのだが、そしてそれで計算しても良いのだが、それでは数が多くなって計算が面倒だ。だから、組み合わせ 9C3=84 通りで計算した方が楽だということだ。
 次に、(A)の分子についても確認しよう。ここで確認しておかなければならないことがある。それは「区別するかしないかを分子と分母(総数)とそろえなければならない」ということ。(A)では分母(総数)を数えるにあたって「コインは全部区別して、取り出す順番は区別しなかった」のだから、分子(111円になる場合の数)を数えるときも同じように数えないといけないということだ。
 だから(A)の分子が「3×3×3=27 通り」なのだ。1円玉を区別するから3通り、10円玉も区別するから3通り、100円玉も区別するから3通り。でも順番は区別しない(「1円玉→10円玉→100円玉」の順でも「100円玉→10円玉→1円玉」の順でも同じ)ので「3×3×3=27 通り」。そういうわけだ。

 ではここで「場合の数の数え方と確率の数え方の違い」についてまとめよう。
 まず「場合の数」の問題で「何通りか?」と聞かれたときは「区別するかしないか」は問題文に書いてある(もしくは状況から読み取れる)ので、それに従えばよい。
 それに対して「確率」の問題で「確率を求めよ」と言われたときは「区別するかしないか」は問題文に何て書いてあるかは関係ない。「同様に確からしい」を守ることは絶対条件で、それさえ守ればあとはなるべく簡単に計算できるように「区別するかしないかをあなたが決めればよい」。
そういうことだ。
コツを言うなら、
 何でもかんでも区別すれば「同様に確からしい」は守られる。だから何でもかんでも区別すれば、安心と言えば安心。けれどもそれでは総数が増えてしまうので、計算が面倒になりがち。
 だから「同様に確からしい」を崩さない範囲で、区別しないでまとめて処理できるものは区別せずに数えた方が楽。けれども「区別しない」のをやりすぎて「同様に確からしい」が崩れてしまったら、その瞬間にアウト。正しい確率が出せなくなる。
 だから「同様に確からしい」を崩さないギリギリのところまで「区別せずに」数える
・・・これが確率のコツ。

 ながぁーい話だったが、お分かりいただけただろうか。お分かりいただけたなら、次の【問題】にトライしてみよう。



【2】ひもが3本ある。両端6個を2つずつに分けて3回結ぶとき、大きな1つの輪ができる確率を求めよ。
 
答えは 下に。。。

ひもを結ぶ問題、後半戦

【2】ひもが3本ある。両端6個を2つずつに分けて3回結ぶとき、大きな1つの輪ができる確率を求めよ。  (名古屋市大 2000年)



 上の記事 に書いたのは、総数を数えるにあたって、
ひもと両端には区別がないのに、区別して数え、
結ぶ順番とどちらの手で取るかは区別があるはずなのに、区別せずに数える
ことにして、総数を
6C2×4C2÷3!=15通り
としました。これが確率を求める際の分母になります。
 次に考えるべきは、分子(大きな1つの輪ができる場合の数)です。さて、これは何通りでしょうか。1通りではありませんよ。分母を数える際に「ひもと両端を区別して、結ぶ順番とどちらの手で取るかは区別しなかった」のですから、分子を数える際にも同じように数えなければなりません。


 上左図はその1例です。ひもと両端を区別すれば、他にもあります。その場合の数は
ひもBとひもCの入れ替え、
ひもBの端 b1 と b2 の入れ替え、
ひもCの端 c1 と c2 の入れ替え、
これらを計算すると、2×2×2=8通り となります。

 念のため他の2つのパターン、すなわち「小さな円が3つできる場合」(上中図)、「中くらいの円が1つと小さな円が1つできる場合」(上右図)についても数えてみましょう。3のパターンを合わせて 15通り になるはずですから。
 「小さな円が3つできる」のは、
結ぶ順番を区別しないのだから、1 通り
だけです。上中図以外にはありえません。また「中くらいの円が1つと小さな円が1つできる」のは、
ひもA,B,Cの入れ替えが 3 通り
ひもBの端 b1 と b2 の入れ替えが 2 通り
ですから、3×2=6通り です。
 以上3パターン合わせると、8+1+6=15通り。総数と合いましたね。これで確信がもてたでしょう。
 というわけで、【2】の答えは 8/15 です。

ひもを結ぶ問題、前半戦

【2】ひもが3本ある。両端6個を2つずつに分けて3回結ぶとき、大きな1つの輪ができる確率を求めよ。  (名古屋市大 2000年)



 上の記事 で訴えたのは、
 確率を計算する際に「何を区別して、何をしないのか」は問題文にどう書いてあるかは関係ない。
 「同様に確からしい」を守ることが絶対条件で、何でもかんでも区別すればそれは守られるが、けれどもそれでは場合の数が増えてしまって数え上げるのが大変になるので、「同様に確からしい」が守られる範囲で「区別しないで済むなら、区別しないで数えた方が楽」。
そういう話でした。この問題でいうと、
ひもを区別するのかしないのか? 両端を区別するのかしないのか? 結ぶ順番は?
それらをどうするか、ということです。ところで、この問いに対して、次のように質問する人が必ずいます。
この問題ではひもには区別があるんですか? それとも区別がないんですか?
と。でも、考えてほしいのですが、
赤・青・黄の3本のひもを結ぶ場合と、全く同じような3本のひもを結ぶ場合とで、「大きな1つの輪ができる確率」が変わるだろうか?
変わりませんね。同じです。ひもに限らず、ひもの両端でも、結ぶ順番でも同じ話になりますが、
「区別があるのか、ないのか」という設問の条件(出題者側の問題)ではなくて、「区別して数えるか、区別しないで数えるか」という解答者側の数え方(判断)の問題だ
ということです。ここでちょっと話を端折りますが、結論的に言うと、この問題では
ひもと両端を区別するのは必須。そうでなければ「同様に確からしい」が守られない。
一方で、結ぶ順番とどちらの手で取るかは区別してもしなくてもどちらでも良い。
ことになります。では、そろそろ計算を始めましょう。まずは総数から。
 まず「6個の両端から2つを選んで」結びますね。その場合の数は、6C2。ちょっとここで確認しましょう。6C2 の 6 は「異なる 6 個の中から」という意味でしたね。つまり 6C2 と書いた時点であなたは「両端 6 個を区別した」のです。
 続けましょう。「残り4個から2つを選んで」結ぶのが 4C2 通り、残った2個を結ぶのは1通り。
よって、総数は 6C2×4C2 通り。
 ところで、次のような場合、あなたは何通りと数えますか?
6人の人を2人ずつの3つのグループに分ける
やったことのある問題だと思いますが、この場合は 6C2×4C2÷3! とやるのではないですか?
 さて、ひもの問題で 3!で割りますか? それとも割らずにいきますか? というより、ひもの問題で 3!で割る場合と割らない場合とでは、何を区別したことになるのでしょう? もしくは何を区別しなかったことになるのでしょう?
 この問題で悩むのは、そこかもしれません。結論的に言うと、3!で割っても割らなくてもどちらでも良いのです。総数を 6C2×4C2=90通り でやっても、6C2×4C2÷3!=15通り でやっても、どちらでも出来ます。ただ、どちらで数えるかによって「大きな1つの輪ができる場合の数」も変わります。そしてもちろん、総数(分母)の数え方と「大きな1つの輪ができる場合の数」(分子)の数え方は同じでなければなりません。すなわち、分母で区別したものは分子でも区別し、分母で区別しなかったものは分子でも区別せずに数えなければならないのです。
 だから、ここでしっかり考えましょう。「 3!で割るのか割らないのか?」、「 3!で割るのと割らないのとでは、何が違うのか?」、「 3!で割って総数90通りでやるのと、 3!で割って総数15通りでやるのとでは、どっちが楽か?」。そう考えると、この点は大問題だと思いませんか。
 話を少し戻しましょう。3!で割る場合と割らない場合とでは、何を区別したことになるのでしょう? もしくは何を区別しなかったことになるのでしょう?
 答えは「結ぶ順番」です。3!で割ると結ぶ順番を区別しないで数えたことになり、3!で割らないと結ぶ順番を区別したことになります。わかるでしょうか。
 さて、どっちが楽か。たぶん結ぶ順番を区別しない方が楽でしょう。その方が総数が少ないですし、分子を数えるときも結ぶ順番を区別しない方が楽ですから。
 というわけで、総数を 6C2×4C2÷3!=15通り として計算することにしましょう。そうすると、次に分子の場合の数を求めればいいですね。

 いや、ごめんなさい。もう少し確認させてください。とりあえず前に戻ります。というのは、設問の状況を考えると、実際には結ぶ順番があるのです。同時に3つを結ぶことなんて出来ませんから。
 にもかかわらず、結ぶ順番を区別しないことにしたのです。それは私たちの判断です。前にも言いましたね。
確率を計算する際に「何を区別して、何をしないのか」は問題文にどう書いてあるかは関係ない。
と。ついでにもう一つ確認しましょう。総数を数えるときに、順列の P ではなく、組合せの C で計算しましたね。順列 P で数えるのと組合せ C で数えるのとでは、何が違うのでしょう。何を区別しているのか、もしくは何を区別していないのか、言えますか。
 6P2 と 6C2 の違いは「異なる6個の中から2個取り出すとき、取り出す順番を区別するか、しないか」です。取り出す順番を区別して数えるのが順列 P で、取り出す順番を区別しないで数えるのが組み合わせ C です。それはそうと、このひもの問題で P で計算するのと C で計算するのとでは、具体的に何を区別したり区別しなかったしていることになるのでしょう。
 それは言うなれば「ひもを結ぶときに右手で取るのと左手で取るのとを区別するのかしないのか」ということです。ひもの端aを右手で取りbを左手で取る場合と、逆にaを左手で取りbを右手で取る場合を区別するなら順列 P、区別しないなら組合せ C で計算することになります。上では組合せの C で計算したわけですからそれを区別しなかったというわけですが、これも実際には片手で2本のひもを結ぶことはできませんから、問題文の状況に忠実に計算するなら、順列の P で計算してもよさそうなものです。でも何度も言うように、
「同様に確からしい」が崩れないなら、区別しないで数えた方が楽
だからそうしたわけです。奇妙に感じるでしょうか。この問題では
ひもと両端には区別がないのに、区別して数え、
結ぶ順番とどちらの手で取るかは区別があるはずなのに、区別せずに数えよう
というわけです。そして、そのように数えるのが確率のコツなのです。

 まだ分子の数を求めていませんが、今日はここまで。あす分子の数を数えてようやく確率が求まります。でも、分母(総数)を数えたときに「何を区別して、何を区別しなかったのか」をしっかり自覚していないと、分子(大きな1つの輪ができる場合の数)も数えられませんから、ここまでくどくどと書きました。あしからず。

一息入れて、続きます

だまされやすい確率

【3】1組のトランプの絵札(ジャック、クイーン、キング)の合計12枚の中から任意に4枚の札を選ぶとき、ジャック、クイーン、キングの札がそれぞれ少なくとも1枚選ばれる確率を求めよ。
  ・・・という問題に対して、A君、B君、C君は次のように答えた。正しいのは、だれ?

    《A君の答え》
  総数(分母)は 12C4 通り。
  分子は、まずJ,Q,Kの決め方が 43 通り。残り9枚の中から任意の1枚をとる。
  よって、求める確率は 43×9/12C4

    《B君の答え》
  まず3枚とり出して、その中にJ,Q,Kが含まれる確率は 4312C3
  次に、残り9枚の中から任意の1枚をとる。
  よって、求める確率は 4312C3×9/9

    《C君の答え》
  余事象を考える。J,Qだけが出るのは 8C4 通り。
  Q,Kだけが出る場合も、K,Jだけが出る場合も同じ。
  よって、求める確率は 1-8C4×3/12C4



 生徒たちから「A君じゃね?」「いや、C君だ」「全部合ってるように思う」などいろんな声が出たが、実はA君,B君,C君ともみんな間違い。(おぃおぃそれくらい気づけよ!)
 そこで私は「じゃぁ正しい確率出してよ」と振る。生徒たちは再び考え始めて、途中で他の人のと見比べると・・・合わない。みんなが出している数値が何パターンもあって、どれが正解だかわからない。
 ほぅれみろ。確率って出来そうで出来ないだろ。それを実感してもらうためにこの問題をやってるのさ。確率の問題って、解説を聞いたり答えを見たりすれば「ふむふむ」と分かった気になる。でも自分でやろうとすると、合わない。そういうもんなのさ。だからさ、僕が間違った答えを言っても、君らはたぶん信じるよ。僕はね、ここにいる全員をだます自信があるよ。
 そこで、まずは「A君、B君、C君の答え方、どこが間違っているのか指摘して」みよう。そうじゃないと、だまされる。A君、B君、C君がどこで間違ったかというと、結局はモレがあったり、ダブったりということだ。

  • A君は、たとえば「(J1,Q1,K1)+(J2)と(J2,Q1,K1)+(J1)」をダブって数えている。
  • B君は、たとえば「初めに(J,J,Q)を取り出して、最後に(K)を取り出す場合」がモレている。
  • C君は、たとえば「Jだけが出る場合」を2回ダブってカウントして、余計に引いている。

 では、ここで【3】の正しい答えを言おう。A君、B君、C君の答え方を修正してもできるのだろうけれど、僕は次のように数えた。
  2枚出る絵を選ぶ
  (JorQorK) Qから1枚
      ↓   ↓

      4C2×4C1×4C112C432/55
        ↑    ↑ 
 例えばJから2枚とる  Kから1枚
ここで生徒たちは「なるほど」という顔をする。僕はすかさず「ほぅら、まただまされた!」。でも実はこれが正解。でも、そんなことは口が裂けても言わない。

気づきにくいダブりとモレ

「確率名人になるための5題」のうちの4問目。



【4】四面体ABCDの各辺はそれぞれ確率 1/2 で電流を通すものとする。
  このとき、頂点Aから頂点Bに電流が流れる確率を求めよ。
  ただし、各辺が電流を通すか通さないかは独立で、辺以外は電流を通さないものとする。
(東京大 1999年)



 頂点AからBに電気が流れるのは次の5パターンです。
(以下、各辺に電気を通す場合を「オン」と書き、電気を通さない場合を「オフ」と書きます)


辺ABがオンである確率は 1/2、辺ACとCBがオンである確率は 1/4、・・・これらを全部足すと、
1/2+1/4+1/4+1/8+1/8=5/4
あれっ? 1を越えちゃいました。なんかおかしいですね。さて、どこが間違っているのでしょうか?
 もうおわかりですね。ダブっています。たとえば、四面体の6つの辺がすべてオンである場合を5回もカウントしてます。もちろん、それさえ除けばOKというわけでもありません。他にもたくさんダブっています。

 この問題の難しいところは「モレなく、ダブりなく数える」こと。各辺はオンかオフかのどちらか2通りですから、6本の辺のオン・オフの組み合わせは全部で「2 の 6 乗=64 通り」あります。基本的にはそれを全部書き出すくらいの覚悟で臨んだ方がいいでしょう。
 書き出すときは「規則正しく」。とはいえ、本気で全部書き出すと逆に混乱しそうですから、まとめられるのはまとめて書き出しましょう。そうして書き出したのが、下表です。表中の○印はオン、×印はオフ、「-」印は「任意」(オンでもオフでもよい)を表します。「-」印(任意)を使うことで、64通りのものを12行で書き出しました。


 こうして書き出すだけでもなかなかやっかいなのですが、電気を通す場合も通さない場合も全部書き出せば「モレもなく、ダブりもない」ことが確認できますから、結局はこのやり方が安全確実だろうと思います。
 というわけで、この問題の答えは 3/4 です。

 全部書き出すのはカッコよくないと思う人のために、計算で求める方法を1つ書いておきましょう。
 その場合は「電気が通らない」場合(余事象)の方が結果的に少ないので、その確率を求めて1から引く方が比較的楽です。


 頂点AからBに電気が流れないのは「Aから出る辺が全部オフの場合」(図1)と「Bに行く辺が全部オフの場合」(図2)があります。それぞれ確率は 1/8 ですが、(図3)の場合がダブっていますから、その確率 1/32 を引きましょう。
 頂点AからBに電気が流れない場合は、他にもあります。(図4)と(図5)です。ここまでやれば、モレもダブりもありません。というわけで、答えは、
(図1)+(図2)-(図3)+(図4)+(図5)
 =1/8+1/8-1/32+1/64+1/64=3/4
です。

 ところで、この問題も赤本などで答えを見れば「ふむふむ」とわかった気になるでしょう。でも、自分でやると、合わない。何度やってもモレが出て、ダブりが出ることでしょう。ですから、自分でいろんな方法で数えてみてください。いやになるほど、本当に合いませんから。でも、それを一度はしぶとくやってみることが、確率名人になるためには必要なことです。答えを見て分かった気になるのは危険です。

数学でアクティブラーニング例

 確率や場合の数(数え上げ)の問題に多いのですが、何とか値を求めたと思っても確信が持てず、他の人が求めた値と照合しても一致せず、結局正しい値がわからない、そういう数学の問題があります。
 一方で、正解を聞くと「ふむふむ、なるほど、そういうことなのね」とわかった気になります。結構簡単な問題だと思ってしまいます。
 でも、それで本当にできるようになったかというと、怪しい。似たような他の問題をやってみると、やっぱり合わない。確率や場合の数の問題は、思いのほか難しいものなのです。
 たとえば、次の問題です。


(東北大2014年度入試・文系後期)
 縦横の長さの比が1:3の長方形の板がある。この板を両面とも下図のように線で区切り、できた6つの正方形のそれぞれに赤または白の色を塗ることにする。塗り終えた板において回転や裏返しで同じ塗り方になるものは区別しないとするとき、塗り方は何通りあるか求めよ。ただし、各正方形には1つの色を塗るものとする。

 この問題を次のように小分けして、高校3年生(文系)の授業でやらせました。その時間に扱うのは、この1問だけです。
(1) 6個の正方形すべて同じ色であるとき、 通り。
(2) ちょうど5個の正方形が同じ色であるとき、 通り。
(3) ちょうど4個の正方形が同じ色であるとき、 通り。
(4) 塗り方は全部で 通り。



 生徒たちが解き始めて15分くらい経ったころに、私は言いました。
隣の人の答えと比べてみな。けっこう合わないんじゃないか?
実際その通りです。みんなの答えがテンでバラバラ。自分の出した答えが合っているのかも、どれが正解なのかもわからない。そこで、次のように進めることにしました。
 自由に席を移動して、まずはお互いに答えを見せっこして、どれが正解かを探ることにしよう。答えが合わなかったら、どちらかがどこかで間違えているはずだ。それを指摘できるかな?
 2人でやれば精度は上がるけど、まだ確信は持てないね。では、どうするか。5~6人くらいでチーム作れ。そして、チーム全員が納得するまでやってみよう。
 自分の出した答えが正しいというなら、みんなに説明してみよう。説明することは自分の解き方を確認することになるし、みんなのチェックを受けることにもなる。説明を受ける側が、その答えが間違っていると思うなら、ミスを指摘してあげてくれ。
 チームで答えが一致したら、他のチームの答えと照合してごらん。答えが一致しないかもしれないよ(現にそういうケースがいくつかあった)。もし答えが一致しなかったら、チーム同士で相手のチームに説明し合ってごらん。そこでまた間違いに気づくでしょ。
 そのうちにクラス全員が同じ答えになるだろうな。そうなったら、それがきっと正解だよ。
授業残り10分になったところで、僕が出した答えを伝えました。出来ることならクラス全員の答えが一致するまでやれれば良かったんでしょうけれど、現実にはそういうわけにもいきません。
 僕が出した答えは (1) 2通り (2) 4通り (3) 12通り (4) 24通り。僕は自分で解いてみて、それから問題集に書いてある答えと照合した。だから、僕としてはたぶん合っていると思う。でも、君らの答えを見ていたら、自信が無くなってきた。
 君らが、僕の答えは間違いで、君らの答えの方が正しいと思うなら、僕に説明してくれ。僕を納得させてくれ。
結局、誰も来ませんでした。こうして(たぶん正しい)答えの数値だけを伝えて、解説などは一切なしの授業が終わりました。この日にやったのは、この1題。
 もし私が懇切丁寧に解説したら、みんなわかった気になって、でも相変わらず自力では解けないままだったことでしょう。いつの間にか、なかなか素敵なアクティブ・ラーニングの授業が出来ていました。

mission@スキー部の春大会

(2016年4月末)

 みなさんには信じられないことでしょうし、私にも信じがたいことなんですが、実は今スキーの大会に来ています。東京都の高校スキーの春の大会です。
 場所は群馬県嬬恋村。「雪があるのか?」とお思いでしょう。ない。けれども人工降雪機で作ってなんとかやっています。
 とはいえ、いくら人工降雪機を使っても、気温が上がったり雨が降ったりすれば融けます。というわけで、やれるかやれないかはその日になってみないとわからない。
 そして結局、大幅に予定を変更しながら、出来ないなりにやっているというのが実際です。それはそれで仕方がないのですが、結果として暇な時間ができます。予選敗退ということになれば、なおさらです。

レストハウスから見た景色        大会のコース   

 そこで私は考えた。自由な時間がたっぷりあるなら、開き直ってスキー以外のことをやろうじゃないか、と。そして部員たちにいくつかの mission を与えました。次の10個の中から好きなものを選んで、何人かのチームで取り組んで、明日の夜のミーティングでプレゼンしろ、と。

○ スキー部の大会で嬬恋村にいるというこの機会をとらえて、次のことをネットで調べるなどして考察せよ。
mission 1》 真田家または武田家にとっての、嬬恋の地の戦略的重要性。
mission 2》 宿泊地である鹿沢温泉と、近くにありそうな断層との関係。
mission 3》 大会役員がせっせと撒いていた「硫安」とやらの化学式と効果。
mission 4》 生卵とゆで卵ではどっちが速く転がるか? → スキーで速く滑る秘訣は?
mission 5》 固体の板と固体の雪でなぜ滑るのか? → スキーで速く滑る秘訣は?
mission 6》 暖冬・雪不足は今年だけの現象か、これから先も続くトレンドか。
mission 7》   〃   の影響による嬬恋村のマイナス経済効果を算出。

○ 普段学校でやっている勉強をここでもやろう。ただし、みんなが居るという条件を生かして。
mission 8》 学校の勉強。ただし、学校や家でやるとは違うやり方で。
mission 9》 本を持ってきているなら、友達と交換して読む。

○ その他
mission 10》 友達が感心し、かつ将来に生きるような変わった時間の使い方。

 さぁて、どうなることやら。



 娘からスマホにメッセージが入った。
娘:雪あるの?
私:ない。
娘:大会できてんの?
私:やってる。
娘:がんばれ。
私:ありがとう。
なかなかよく出来た娘だと思う。私との掛け合いもしっかりかみ合っている。

フロッピー・ディスクを分解してみました

 あなたはフロッピー・ディスク(以下、FD)を使ったことがありますか?(もしかして、まだ使っている人はいますか?)若い人の中には使ったことのない人もいるかもしれませんね。
 高校で情報科が始まったのは2003年、当時FDは現役で働いていました。私も情報科の授業で生徒たちに使わせました。
 さて、一連の授業が終わった最後の時間、みんなでFDを分解しました。それを踏まえての試験問題です。

【問題】下の図は、3.5インチのフロッピー・ディスクの部品を示したものである。
図の(1)~(4)の部品に適当と思われる名称をつけ、それらの役割を書き記しながら、データを読み書きする仕組みをわかりやすく説明しなさい。
その際、FDを「ドライブに挿入したときと挿入していないときの違い」ならびに「本体側のFDドライブとの関係」にもふれること。


 この問題ではまず、次の5つを書くことが絶対条件です。(設問にそう書いてあります)

  • 部品につける適当な名称
  • その役割
  • データを読み書きする仕組み
  • 挿入時と未挿入時の違い
  • FDドライブとの関係

 次に、どこまで丁寧に書くのか?「ある程度はわかるけど、突き詰めるとよくわからない」ことをどこまで掘り下げるか?それについては「上の5ヶ条に少しは触れながら、あとは得意分野に絞って(書けることを)わかりやすく書く」ってことで良いでしょう。



では《解答例》です。

《解答例1:部品ごとに分けて》
(1) シャッター
 ドライブにセットしていないときは、磁気ディスクを守る働きをする。ドライブにセットすると、シャッターの窓と表ケースの窓が重なって、データの読み書きが可能になる。
(2) 開閉バネ
 ドライブにセットしていないときは、バネが開いた状態になり、ドライブにセットしたときは、バネが閉じた状態になる。そうして、シャッターを移動させる。
(3) 回転ハブ
 ドライブに吸着され、回転ハブを軸にして磁気ディスクが回転する。回転することでドライブのヘッドが磁気ディスクのいろんな部分にアクセス出来るようになる。
(4) 磁気ディスク
 表面に磁性体が塗布された薄い円盤状のもので、データを記録するFDの基幹部品。ドライブのヘッドが、磁気の力を利用して、デジタルデータを磁石のN極とS極の2パターンで記録する。
《解答例2:挿入時と未挿入時に分けて》
 FDをドライブにセットしていないときは、(2) スプリング には力がかからず、開いた状態(伸びた状態)になって、(1) スライド の窓と表ケースの窓がずれた位置に来る。こうなることで、(4) 記録フィルム が傷つけられたり汚れたりするのを防いでいる。
 FDをドライブにセットしたときは、スライドに力がかかって移動する。このとき、スプリングは閉じた状態(縮んだ状態)になり、スライドの窓と表ケースの窓が重なって、ドライブのヘッドが記録フィルムに直接アクセスできるようになる。
 データの読み書きをするときは、(3) 回転シャフト がドライブに吸着し、ドライブ側の動力で回転シャフトと記録フィルムを回転させる。同時にドライブのヘッドが半径方向に移動しながら、記録フィルムの各レコード/各セクタにアクセスする。
 記録フィルムには磁気を感じる性質があって、ドライブのヘッドは記録フィルムに直接接触しながら、電磁石の力で記録ファイルのデータを読み書きする。
《解答例3:読み書きの仕組みを中心に》
 FDをドライブに挿入すると、ドライブがFDの (3) グルグル をくっつけるかグルグルの穴をつかむかして、(4) ペラペラ ごと回転させる。ペラペラには磁石みたいなものが塗ってある。PCのメモリー上では電気のオン/オフで表されていたデジタルデータを、ドライブかOSかで、磁石のN極/S極に変換して記録するってことだ、きっと。
 ところでFDの容量は1.44メガバイト。メガが約100万で、1バイトが8ビットだから、要するにペラペラの中に1000万個の磁石があるってこと。ペラペラがグルグル回っている間に、ドライブ側の磁石がピンポイントでペラペラの中の磁石のN極・S極を変えるんだろう、たぶん。
 FDをドライブから取り出すと、(2) ビョーン が伸びて、ペラペラが露出しないような位置に、(1) シャッシャッ が移動する。つまり、FDがドライブに装着されていないときにペラペラを守るために、ビョーンとシャッシャッがあるってことだ。
ところで、実は似たような問題が「東京工業大学2002年度後期入試」に出ています。その問題は、FD2枚・マイナスドライバー1本・ポリ袋1枚を配布して、試験中にFDを分解しながら答えるものでした。

慶応薬学部2018より「条件付き確率」の問題

 薬学部らしい「条件付き確率」の問題です。


慶應大学薬学部2018(数学)より

1000人の集団があり、そのうち5人がウイルスに感染している。
この集団に対して検査方法Aを用いて、ウイルスに「感染している」か、「感染していない」かを判定する。検査方法Aでは、ウイルスに感染していない人に対して「感染している」と判定をする確率が 3/1000 であり、ウイルスに感染している人に対して「感染していない」と判定をする確率が 1/1000 である。

(1) ウイルスに感染している人が、検査方法Aでウイルスに「感染している」と判定される確率は である。

(2) この1000人の集団から1人を検査方法Aで調べたとき、ウイルスに「感染している」と判定される確率は である。

(3) この1000人の集団から1人を検査方法Aで調べたとき、ウイルスに「感染している」と判定された。この人が実際には感染していない確率は である。



《答》
(1) 1-1/1000=999/1000

(2) 5/1000×999/1000+995/1000×3/1000
  =999/200000+597/200000
  =1596/200000
  =399/50000

(3) 597/200000÷1596/200000
  =597/1596
  =199/532

測定値 と 誤差

 まず、測定値とは何か? あるものの長さや重さなどを測定して得た値のこと。これでよかろう。
 では、誤差とは何か? 中学の数学の教科書には「誤差=測定値-真の値」と書いてある。(※ 正確に言うと、「測定値は近似値」であり「誤差=近似値-真の値」とあるが、要は上と同じこと)
 えっ? 待てよ。真の値って何だ? そんなもの本当にあるのか? それはどうやればわかるんだ?
 だってさ、真の値がわからないから測るんでしょ。測定値に近い所に真の値があるんだろうけど、真の値はどう転んだってわからないんじゃないのか。だから、測定値真の値みなすしかないんじゃないか。
 改めて、誤差って何だろう? 「測定値には誤差がある」というならわかる。
けれども「測定値真の値の差のことを誤差という」という言い方をしたら堂々巡りになってしまう。ましてや「誤差測定値真の値」とするとプラスかマイナスがつくことになってますますおかしい。
 ここでちょっと問題にトライしてもらおう。

【問題】次の場合の誤差を(中学数学の定義にそって)求めよ。
  1.  真の値が 1.23456789 のものを測定して 1.23 という値を得たとき。
  2.  √2 の値を 1.4 としたとき。
  3.  円周率を 3 で計算したときの直径 1 の円の周の長さ。

【答え】
  1.  0.00456789 は間違い。マイナスをつけて -0.00456789 と書くのが正解。
  2.  √2 = 1.41421356・・・ より 誤差を 0.01421356・・・ と答えたら間違い。
    この誤差には誤差がある。誤差を正確に言うとしたら √2 -1.4 と答えるしかない。
  3.  直径 1 の円の周の長さは π もしくは 3 だが、この誤差を 0.14159265・・・ と答えたら ×。正解は π-3 だ。
変な話だが、誤差を正確に表現しようと思ったら測定値(近似値)を使っちゃいけないんだ。
 でも、√2 の大きさを知らなくて 1.4 で計算した人に「それじゃ √2 - 1.4 の誤差がある」と言って何になる? 円周率を 3 で計算する人に向かって「それじゃ π- 3 もの誤差がある」と言って一体何が伝わるんだ?
 誤差の前では測定値は意味を失う。けれど測定しなければ真の値は見当もつかないし、誤差なんてわかるはずもない。あぁまた堂々巡りしてしまった。
 というか、誤差を正確に求めるなんて無意味だよね。そんなの論理矛盾している。もちろん工業製品であれば誤差を限りなく小さくするのは大事なことなのだろう。
 でもそう考えるとますますわからなくなる。 で結局、誤差ってなに???

2019年4月20日土曜日

「バーチャル・リアリティー」の意味

 バーチャル(virtual)という単語をYahoo!辞書の英和辞典で引いてみた。いくつかの訳語がでてくるが、一番最初に出てきたのは次のものだった。
  • (名目上でなく)事実上の,実質上の            (新グローバル英和辞典)
  • (名目上はそうではないが)実質上の,事実上の,実際(上)の (プログレッシブ英和中辞典)

 さて、ネット社会のことをバーチャル・リアリティー(virtual reality)と呼ぶことがあるが、この訳語に従うと、その言葉は次のような意味になるんじゃなかろうか。
ネット社会は決して仮想の空間ではない。目の前に広がる物理空間よりも、
ネット社会の方がむしろ実質的に現実の空間である。
と。

2019年4月19日金曜日

宇宙展に行ってきた

(2016年秋)

 六本木ヒルズの最上階で行われている宇宙展を見に行ってきた。「宇宙と芸術展」という名称で、「人間は宇宙をどのように見てきたか」がコンセプトらしい。
 入ってすぐにあるのは曼荼羅(マンダラ)。仏教の宇宙観を表したものという言い方はできるだろうけれども、こじつけのような気がしないでもない。そうは言っても、私のブログ記事にもこじつけのようなものが多いから、「私の記事の方向性も間違ってはいないな」と安心感を持った。
 竹取物語の絵巻もあった。「かぐや姫は宇宙人だったのか?」と言いたいようだが、かぐや姫ネタ なら私のブログ記事の方が面白い。
 江戸時代に現れたという「うつろ舟」に関する展示(写真右)もあった。茨城県の海岸に現れたということで、江戸でニュースになった。今でいえばゴシップ記事だが、それを「UFOか?」と展示している。ところで海の中の異界と言えば竜宮城だが、竜宮城ネタ もやっぱり私のブログ記事の方が面白い。


 ところで私のお目当てはというと、コペルニクスガリレオニュートン が書いた本と レオナルド・ダ・ヴィンチ が宇宙のことを描いた1枚のメモ。このブログでも記事にしたが、現物を見てこようと思ったわけだ。
 コペルニクス、ガリレオ、ダ・ヴィンチのものは撮影禁止だったが、ニュートンの「プリンキピア」(写真左)だけは撮影可だった。コペルニクスとガリレオの本は途中のページが開いてあったのに対して、プリンキピアはなぜか表紙を見せていたのが謎だったのだが。
 現代アートのようなものもあり、映像や音を楽しむコーナーもあって、科学っぽさがあまりなくて、ゆる~い感じの宇宙展だった。私もこれからもゆる~い科学ネタ・数学ネタを書いていきたい。

漫才ワークショップに参加した

(2016年11月)

 先日「日本お笑い数学協会」なる団体が主催したイベントに参加した。午前と午後の2つ分。コンセプトは「お笑い×数学」。
 30分~1時間の企画が2本同時並行で行われた。朝から夕方までいくつかの企画に参加したが、一番面白かったのは「漫才講座」。体験型のワークショップだ。講師はよしもと所属の芸人と元芸人、1時間の枠で行われた。
 その日の企画の中で、これだけは数学とは直接関係ないものだったが、初めての経験だったこともあって、貴重な経験ができた。この後もう経験することはないかもしれないので、一通りの流れをここに記録しておく。



1.参加者10人を2人ずつの5つのコンビに分けて、まず2人でコンビ名を決める。
  その上で1つ目の漫才、コンビ名を名乗るだけの漫才を披露。
(入場しながら) どーもっ、〇〇〇でーす。
もういいわ。 (いきなりツッコミ)
ありがとうございましたぁ。 (礼をして退場)

2.次は、最後のオチだけを作って漫才披露。大体の流れは講師から与えられた。
  参加者の多くが教員だったため、学校ネタで。
(入場しながら) どーもっ、〇〇〇でーす。
わたし先生やってるんですけど、転校生の紹介が苦手なんですよ。
そんなの簡単だよ。やってみせるよ。きみ、転校生役やってね。
あー、はいはい。
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
(もういいわ/なんでやねん/いい加減にせぃ など)
ありがとうございましたぁ。 (礼をして退場)

3.お題を与えられて、2人のセリフが3往復くらいの漫才を作る。
  お題は 転校生/卒業式/HR(ホームルーム) のいずれか。



 それに対して、僕らのコンビは次のようなものを披露した。恥ずかしながら。。。
1.曲線ズ

2.こちらがみんなが大好きなフランシスコ・ザビエルさんです。
  なんでやねん。ハゲてないわ。

3.どーもっ、曲線ズでーす。
  さぁて今日はHRで席替えするぞ。
  やったぁ。
  では、問題です。「席替えしたのに前と同じ席になっちゃったやん」という人が出てくる確率を求めよ。
  わぁーっ、出たぁ数学オタク!
  はい、×だね。正解は、約63%。
  (ここだけの話、ネタばらししますと、完全順列をnでやれば証明できます。後でやってみてください)
  それはそうと、どうやって席替えする?
  ジャンケンか、くじ引きか。。。うーん、どうしようかなぁ。
  じゃぁこうしよう。「エクセルで乱数を使って、自動席替えシートを作れ
  おいおい、また数学かい?
  ありがとうございましたぁ。



 やってみてまず思ったのは、1.はコンビ名を名乗るだけだが、恥じらいを解消するためにもやっぱり必要。
 続いて2.はほんの1文だけでも漫才を作ってみるのは楽しい。やってみるのは、まだ恥ずかしいけど、やっぱり楽しい。
 3.では面白いかどうかより、けっこうマジな数学ネタになってしまったが、参加者に合わせたという意味ではよかったのかもしれない。良い経験ができた。

なぜ2月だけ日数が少ないのか?

 1ヶ月の日数は30日か31日が基本なのに、なぜか2月だけは28日。うるう年でも29日。なんだかバランスが悪いような気がしないか?
 1年365日(うるう年は366日)を12ヶ月に分けるのに、もっとバランス良い分け方がある。例えば、2月・4月・6月・8月・10月・12月を30日にして、1月・3月・5月・7月・9月を31日にして、11月についてはうるう年は31日、うるう年でなければ30日としても良いはずだ。
 現状のカレンダーの不自然さは2月だけ日数が少ないことだけではない。日数が30日の月と31日の月の並び順に規則性がないこともそうだ。どういうわけか、7月と8月のところだけ31日の月が続いている。なぜなんだろう? そこには何か深い訳があるのだろうか?

 さて、なぜ2月だけ日数が少ないのか? なぜ日数が30日の月と31日の月の並び順が不規則なのか?
 では、ここで正解を発表しよう。正解は、
春休み(3月終~4月初)、夏休み(7月終~8月末)、冬休み(12月終~1月初)が少しでも長くなるように。
そう考えると、とても良い配置だよね。

日本海側で人口が最も多い自治体はどこか?

 日本海側で人口が最も多い自治体はどこか? もちろん日本国内の話である。したがって、韓国の釜山やロシアのウラジオストックなどは含めない。
 日本海側といえば、かつては裏日本という蔑称とも言える言い方があった。その場合、表日本とは太平洋側を指す。陽のあたる表側と陰になる裏側というところか。山陽(中国地方瀬戸内海側)と山陰(中国地方日本海側)という言い方は、今でも正式な名前である。
 実際、日本海側は太平洋側に比べていろんな点で遅れをとった。人口は太平洋側へと流出し、人口は増えず、過疎化が進んだ地域も多い。冬になると雪が降り、しばしば雪に埋もれる。
 そこで調べてみた。以下の数は、2015年の国勢調査による市(政令市を含む)単位の人口である。
 例えば、金沢市(石川県)は47万人。新潟市(新潟県)は81万人。ちなみにこれは世田谷区(東京都)の人口90万人よりも少ない。青森から山口にかけて、これより人口が多い自治体はない。
 でも、その外側にあった。北九州市(福岡県)が96万人、福岡市(福岡県)が154万人。だいぶ南西方向に進んだが、なんとか日本海に面しているという言い方はできそうだ。札幌市(北海道)は196万人だが、地図で市の境界線を確認すると、もうちょっとのところで日本海に面していない。惜しいところではある。
 日本と東アジアの地図を通常とは上下逆さま(上が南で、下が北)にしてみると、日本海側のポテンシャルの高さが感じられないだろうか。大陸との関係いかんによっては、日本海側が栄える可能性は高いと思うのである。

2019年4月18日木曜日

少子高齢化と国債残高が嫌なら外国で働けばいいじゃん!

(2016年11月)

 NHKスペシャル「がん治療革命が始まった」を見ながら娘が言った。「がんが治って高齢者がもっと長生きしたら、若者の負担がますます大きくなっちゃう」。まさに自分の身に降りかかってくることとして受け止めている。
 僕は言った。「少子高齢化だけじゃないよ。日本政府の借金も若者が返済するしかないんだから」。
 僕は続けた。「それが嫌なら、外国で働けばいいじゃん!」。娘が怪訝な顔をしているので、解説した。
「稼いだ国で税金を納めるんだから、人口が増えている国、借金を抱えていない国で働けば、日本で働くよりずっと安い税金で済むよ。東南アジア一帯ならどこでも日本よりマシだろうな。稼いだ分を丸々自分で使おうと思うなら、外国で働け」
 娘が言い返した。「でも東南アジアで働いたら、給料安いんじゃないの?
「いま現在はそうかもね。でもグローバル化が進んで人と物の動きが自由になったら、給料も物価も近づいていくだろうな。同じ仕事なら世界のどこで働いても給料は同じ。同じ暮らしぶりならどこに住んでも生活費は同じ。それがグローバル化の帰結なのさ。さて、給料も生活費も同じなのに、1つだけ違うものがある。何だと思う?」
 娘が答えた。「あっそうか、税金か」。そう、税金は国家の事情で決まる。日本の特殊事情が少子高齢化と国債残高というわけだ。
 娘は「なるほど」という顔をした。娘は僕に向かって「ピンコロ(「元気でピンピン→コロリと死ぬ」の略)でよろしく!」と言うような賢い子だから、その辺は合理的に考えて行動するのかもしれない。

 そう考える若者が増えれば、ますます日本の財政は厳しくなる。真っ先に立ち行かなくなるのは年金だろう。
 ところで、考えてみると変な話だが、外国へ出れば義務は免除される一方で、外国へ出ても権利は守られる。国債の話だ。つまり収入が多くかつ資産(国債)を多く持つ者は、拠点を外国に移せば、借金返済の義務は免れて、債権の元本ならびに利子は確実に受け取れる。そう考えると、日本の破たんはますます近い。
 最近世界で起きている問題の多くは「グローバルとローカルのせめぎ合い」に起因する。ここで言うローカルとは、国境=国家のことである。パナマ文書難民、IS、格差、トランプ氏当選など。日本の少子高齢化と国債残高も、これから同じ波に揺さぶられる。

☆ 水の不思議

◇ 水は、他の物質に比べて 比熱容量 が非常に大きい。
 つまり、水の温度を上げ下げするためには、大量の熱の出入りが必要なわけです。逆にいうと、熱の出入りが同じであれば、水は他の物質に比べて温度変化が小さくなります。日常生活でいうと、お湯を沸かすには大量の熱が必要で、沸かしたお湯はなかなか冷めないということです。

◇ 水は、他の物質に比べて 融解熱 が格段に大きい。
 水の融点(=水が凍る温度=氷が解ける温度)は 0℃ ですが、このときに大量の熱の出入りがあります。氷に熱を加えると、そのうち一定の量が氷を融かすために使われ、その分だけ温度上昇が抑えられます。だから、ジュースに冷たい鉄球を入れるより、氷を入れた方がジュースがよく冷えるわけです。

◇ 水は、他の物質に比べて 気化熱(蒸発熱)がべらぼうに大きい。
 水の沸点(=水が蒸発する温度)は 100℃ ですが、このときにも大量の熱の出入りがあります。球の気候でいうと、水が蒸発するとき周囲の熱を大量に奪ってくれるということです。また上空で水蒸気が水に戻るときに、大量の熱を宇宙空間に放出することになります。

 以上3つの特徴はいずれも、熱の出入りに対して水(=氷=水蒸気)の温度変化を小さくする働きがあります。水がクッションのように働いて、気温の変化がやわらげられる わけです。
 他にも水には特別な性質があります。

  ◇ 氷点下でも湖の水が凍らない訳 
  ◇ カーリングのストーンはなぜ滑るのか? 
  ◇ 99℃の雨が降る? 
  ◇ 究極のローテク、太陽熱温水器の効果絶大 
  ◇ 0℃の氷と−100℃の鉄球ではどっちが冷える? 

算額見学ツアー

(2018年夏)

 数学研究同好会の合宿3日目、和算に詳しい顧問の引率のもと、合宿所近くのお寺に奉納してある古い算額を見せてもらいに行った。一応顧問である僕もついて行った。
 算額は2つ残っていたが、どちらもお堂の壁の上の方に掲げてあって、文字はよく見えなかったが、扇子の図柄の中に円と半円が描いてあるのはわかった。
 それとは別に俳諧の額もあって、「シチタイノレイブツ」(「七体の霊仏」の意か?)の9文字を3×3に並べて、縦・横・斜に並ぶ3文字を含めて詠む形の俳諧が奉納されていた。


 「観光寺ではなく、檀家を抱える菩提寺」と住職も言っていたが、それにしても山門を入ってから108段ほどの階段を登り、別の門には大きな草鞋(わらじ)が掲げてあったりと、なかなか立派で趣深いお寺(寺尾七尊観音堂、曹洞宗正眼寺)だった。
 駅からお寺に向かう途中、国道脇にとても小さな神社があった。合宿所もお寺も新潟県南魚沼市。お米の美味しいところ、スキー場がたくさんあるところという認識はあるが、文化的・宗教的にも面白い土地なのかもしれないと思った。

クリスマスのプレゼント交換で確率計算してみよう

 クリスマスのプレゼント交換で、みんなが持ち寄ったプレゼントを一人に1個ずつ無作為に配る。このとき「おいおい、自分が持ってきたものが自分のところに来ちゃったよ」という人が現れる確率はどれくらいでしょうか?
 実は(ア)人以上のグループであれば、クリスマス・パーティーに参加した人の誰かがそういう目に合う確率は約(イ)%になります。

 では、ここで【問題】です。(ア)に入る最も小さい自然数とそのときの自然数(イ)を答えてください。「約(イ)%」というのは、百分率で表した数の小数点以下を四捨五入して自然数で表した値が(イ)になるということです。

 ちなみに、その状況は「席替えしたのに結局前と同じ席になっちゃったよ」というのと同じです。人数が1人の場合、2人の場合、3人の場合・・・と実際に計算してみてください。たぶん見えてきます。そしてその値が意外に大きいこと、人数が変わってもその値がほとんど変わらないことにちょっと驚くことでしょう。



《解説・解答》は こちら をどうぞ。

今年初めての雨、最低記録ならず?

(2019年1月31日)

 今日、東京で今年初めての雨が降った。東京全域で降ったかどうかは知らない。そこで思い出したことがある。先日、テレビの天気予報のコーナーで言っていた。

  • 今月に入ってからの東京の降水量はゼロ。このままいけば、1月の降水量は観測史上最低となる。

 さらに丁寧なことに、画面には次のような文字が書いてあった。

  • 1月の降水量ゼロは観測史上最低記録。(月末まで雨が降らない場合)

 おいおい、当たり前じゃないか。それにね、これだけだったら何も特別なこととは言えないぞ。
 「最低記録」というのは「最低記録更新」という意味だとは限らない。「最低記録タイ」でも最低記録に違いない。ということは、1月の降水量ゼロの年がこれまでに何回もあっても、上のことは言えるじゃないか。例えば、

  • 8月の降雪量はゼロ。
  • この半年間、日本列島に台風が上陸していない。

 これだって「観測史上最低記録」だ。でも、冬から春にかけて台風が上陸しないのはいたって普通のことだし、真夏に雪が降ったらそれこそニュースになるだろう。つまり、8月に雪が降らないこと、半年間一度も台風が上陸しないことは、例年のことである。それでも「観測史上最低記録」には違いない。ゼロなら確実に最低記録だ。
 だから当初のテレビ番組の言い方が「変だな?」と僕は思ったわけだが、それはそうと、1月最終日の今日雨が降ったことで「今年1月の東京の降水量はゼロ」ではなくなった。でも雨はパラパラ程度の小雨なので、せいぜい「今年1月の東京の降水量は数ミリ」程度になるだろう。それが珍しいことなのか、よくあることなのか、最低記録なのか、そうでないのかについては結局よくわからない。
 当初のテレビ報道では「このままいけば」、「月末まで雨が降らない場合」と言っているから、もちろん間違ってはいないし、「観測史上最低記録」も全くもって正しい。けれどもよくよく考えれば、当たり前のことを言っていたに過ぎないわけで、その意味では中身の無い報道だったと言えなくもない。
 そのテレビ番組では「最近雨が降っていない」こと、「乾燥してるから注意してね」などを言いたかったのだろう。それはそれで良いのだが、説得力を増すつもりで言ったのであろう「観測史上最低」という言葉は的外れだった感がある。

 最近の僕は統計ネタに敏感になっているようで、噛みついてみた。

2019年4月17日水曜日

慶大入試数学で「限界費用」を理解する

(慶應大学・商学部入試2017「数学」より)

 A社は工場 FA で商品 PA を製造している。商品 PA の製造費用を表す変数は、製造量 x の関数であるとする。この関数を c(x) で表す。以下の分析を容易にするため、c(x) は区間 x≧0 を定義域とする関数とし、c(0)=0とする。また、正の実数 u に対して、関数 c(x) の x=u における微分係数が定まるとし、その値を x=u における限界費用といい、m(u) で表す。さらに、a(x)=c(x)/x と定め、正の実数 u に対して、a(u) を x=u における平均費用という。ここで、
m(x)=x2-8x+17 …… ①
であることがわかったとする。

(ⅰ) 区間 x>0 において、限界費用が最小となる製造量を xm で表すと xm であり、平均費用が最小となる製造量を xa で表すと xa である。

   xa+1
(ⅱ) ∫  |m(x)-a(x)| dx= である。
   xm

(ⅲ) この問いでは、限界費用 m(x) を特定する式①は仮定しないことにする。その場合でも、ある x~>0 に対して、平均費用 a(x) が区間 0<x≦x~ において単調に減少するならば、すなわち、0<u<v≦x~ ならば a(u)>a(v) となるならば、
     x1+x2≦x~ , x1>0 , x2>0
と満たす任意の x1 , x2 に対して、
     c(x1+x2)<c(x1)+c(x2)
となることを証明せよ。

(ⅳ) B社は工場 FB で商品 PA と同等な商品 PB を製造している。商品 PB の製造費用は商品 PA の製造費用と同じであるとする。すなわち、B社における商品 PB の製造費用は、製造量 x の関数 c(x) で定まる。
 ここで、A社がB社を買収したとし、商品の製造はA社が工場 FA ですべてまとめて行うこととする。(商品が同等なので、工場 FA で製造した商品 PA をB社の顧客に提供しても何ら問題はない。また、このとき、工場 FB における製造量は 0 になる。)買収前と比較して、製造を集約することによって両社合わせた製造費用が節約される度合いを求めてみよう。
 買収時点での商品 PA と商品 PB の製造量を、それぞれ u1 と u2 (u1>0 , u2>0)とする。このとき、節約される費用は、再び、限界費用 m(x) に対して式①を仮定すると、
     u1u2(            )
となる。(もしこの値が負となる場合は、製造費用は節約ではなく追加されることになる。)



《答え》
(ⅰ) xm4 , xa6
(ⅱ) 76/9
(ⅲ) (略)
(ⅳ) 8-u1-u2

(やってみたけど、限界費用の意味がわからなくても指示通りの計算をすれば答えが出て、そのくせ計算が面倒。結局のところあまり面白くなかった)

限りある資源の最も有効な使い方(慶応大の入試問題より)

(慶應大学・総合政策学部入試2017「数学」より)

 いま、10棟の工場が地下水を汲み上げて操業している。工場には1から10までの番号がついており、工場 i の地下水の汲み上げ量をxiで表すことにする(xi≧0 , i=1 ,…, 10)。また、各工場の地下水の汲み上げ量が増加すると、地下水の平均的な水位が低下することにより、汲み上げに要する費用が増加し、地下水の汲み上げ量1単位あたりの利益が減少する。いま、(x1 ,…, x10)を x と表し、地下水の汲み上げ量1単位の利益を
10
Σ xi>25 のとき、p(x)=25-Σ xi
k=1
それ以外のとき、  p(x)=0
と定義する。この値は各工場で共通とする。すると、工場 i の利益は p(x) xi で表すことができる。

(1) 各工場が互いに協力して Σ p(x) xi を最大化するように地下水の汲み上げ量を決めた場合の工場 i の汲み上げ量を xi’ とすると、すべての工場の利益の合計は
10
Σ p(x') xi'=
k=1
となる。ここで、x’ は(x1’ ,…, x10’)を表す。

(2) 他の工場の地下水の汲み上げ量はあたえられたものとして、各工場が自らの利益を最大化するように地下水の汲み上げ量を決めた場合の工場 i の汲み上げ量を xi" とすると、すべての工場の利益の合計は
10
Σ p(x") xi"=
k=1 
となる。ここで、x" は(x1" ,…, x10")を表す。



《答え》
(1) 625 / 4
(2) 6250 / 121

起業するなら誰と組むか、どう分けるか?(慶応大の入試問題より)

(慶應大学・環境情報学部入試2017「数学」より)

 A氏、B氏、C氏が起業したいと思っているが、1人では不可能で、最低でも2人が組む必要があるとする。3人が組めば72億円の利益が見込め、A氏とB氏が組めば50億円、A氏とC氏が組めば32億円、B氏とC氏が組めば20億円の利益が見込めるとする。いま、3人が組んで企業した結果72億円の利益が得られたとき、その分配について考える。以下では、A氏、B氏、C氏のそれぞれの分配金を x , y , z で表す。

(1) 3人で組んだ場合に、2人で組んだ場合以上の利益の分配を、それぞれが要求すると、
x , y , z ≧0  ……①
x+y+z=72 ……②
x+y≧50   ……③
x+z≧32   ……④
y+z≧20   ……⑤  (単位:億円)
となる。ここで、②は3人の分配額の合計が得られた利益の72億円になることを表し、③はA氏とB氏の分配金の合計は2人が組んだ場合に見込める利益の50億円以上になることを両氏が要求することを表し、④はA氏とC氏の分配金の合計は2人が組んだ場合に見込める利益の32億円以上になることを両氏が要求することを表し、⑤はB氏とC氏の分配金の合計は2人が組んだ場合に見込める利益の20億円以上になることを両氏が要求することを表している。
 これらの条件を満たす各人の分配額の中で、A氏の分配額が最小となる分配額の組み合わせは、x=□□ , y=□□ , z=□□ である。(単位:億円)

(2) 次に、(1)の条件のうち③~⑤を仮定せず、①と②のみを仮定すると、
x , y , z≧0  ……①
x+y+z=72 ……②  (単位:億円)
となる。ここで、50-(x+y) をA , B両氏の不満、32-(x+z) をA , C両氏の不満、20-(y+z) をB , C両氏の不満、-x をA氏の不満、-y をB氏の不満、-z をC氏の不満と定義し、これらを小さくする分配を考える。このように不満を定義した理由は、A氏とB氏が組めば50億円の利益を見込めたのであるから、分配額との差 50-(x+y) が大きいほどAB両氏のいわゆる不満は大きいと考えたからである。AC両氏の不満、BC両氏の不満についても同様である。また、A氏の不満を -x としたのは、A氏の分配が大きいほどいわゆる不満は小さくなると考えたからである。B氏の不満、C氏の不満についても同様である。なお、不満は負の値になることもあることに注意すること。
 いま、これらの不満の最大値をMとすると、明らかにAB両氏の不満、AC両氏の不満、BC両氏の不満、A氏の不満、B氏の不満、C氏の不満はいずれもM以下となる。この時、Mを最小化する z の値は□□であり、x の範囲は □□≦x≦□□ となる。(単位:億円)



《答え》
(1) x=10 , y=40 , z=22
(2) z=11 , 32≦x≦41

2019年4月16日火曜日

分散投資のリスク削減効果(慶応大の入試問題より)

(慶応大学商学部2006年度「論文テスト」を大幅に改題)

【問】以下の文章を読み、下記の設問に答えなさい。

 証券取引所では多数の株式が売買されている。株価(株式1株あたりの価格)は常に変化するので、株式購入後に値上がりすれば投資家は収益を得て(プラスの収益)、逆に株価が下がれば損を被る(マイナスの収益)。
 株式投資を開始するとき、将来の株価がどうなるかはわからない(収益は確定しない)が、確からしさ(確率)でもって収益の値を予想することはできる。その際に考えるべきことは、収益の期待値とばらつきの度合いである。期待値とは、つまり平均値のことである。ばらつきの度合いは、標準偏差で表される。
 この場合、平均値は大きい方が望ましい。一方、標準偏差は小さい方が望ましい。標準偏差が大きい(ばらつきが大きい)ということは、それだけ大損する可能性が高いということだからである。その意味で、収益の平均値を「リターン」と呼び、標準偏差を「リスク」と呼ぶこともできるだろう。
 説明を簡単にするために、以下のような非常に単純な例で考えよう。ある投資家が200円を株に投資する。投資対象は、株式Aか株式Bのどちらかで、今の株価はどちらも1株100円である。将来の株価はもちろん今はわからないが、株式Aについては、値上がりして107円になる確率が50%で、値下がりして95円になる確率が50%だとする。株式Bについては、値上がりして110円になる確率が50%で、値下がりして94円になる確率が50%だとする。
この条件の下で、株式Aを2株買う場合の収益をXとし、株式Bを2株買う場合の収益をYとすると、X , Yの確率分布は右のようになる。
 ではここでXとYの平均値(期待値)と標準偏差を求めてみよう。このとき、Xの平均値はE(X)=2で、Xの標準偏差はσ(X)=12となる。また、Yの平均値はE(Y)=  ①  で、標準偏差はσ(Y)=  ②  となる。
 その結果を比較してみると、Yの方が標準偏差(リスク)も平均値(リターン)も大きいことがわかる。このとき、もし投資家が「なるべくリスクを小さくしたい」と考えれば、この投資家の判断は「株式Aを2株買う方がよい」ということになるだろう。
 でも、それが最も良い買い方だろうか。それでは次に、株式Aと株式Bを1株ずつ買うことを考えてみよう。ただしこの場合、株式A,Bの値動きは互いに独立だとする。つまり、株式A,Bの価格はお互いに何の影響も与えないものとする。
この場合の収益をZとすると、Zの確率分布は右のようになる。そしてこのとき、Zの平均値はE(Z)=  ③  で、標準偏差はσ(Z) =  ④  となる。
 この結果を「株式Aを2株買う」場合と比べてみよう。E(Z)はE(X)より大きい値になり、σ(Z)はσ(X)より小さい値になった。
 これは意外な結果かもしれない。リスクの小さい株式Aに加えて、よりリスクの大きい株式Bを保有することで、全体のリスクを株式Aのリスクよりも小さくできるのである。これが「分散投資のリスク削減効果」である。しかも上の例では、株式Aだけを保有する場合よりも平均値(リターン)が大きくなっている。だから、投資家にとって、株式Aだけを保有するより、株式AとBを両方保有する方が望ましいということになる。
 もっとも、このようなことが常に成り立つとは限らない。上の設定では「株式A,Bの値動きは互いに独立」としたが、現実には互いに影響し合う場合も多いからである。
 次に、株式Aと株式Bの値動きが互いに影響し合う場合を考えよう。もしAが値上がりしたときBも値上がりし、Aが値下がりしたときBも値下がりするなら、「正の相関がある」ことになる。反対に、もしAが値上がりしたときBが値下がりし、Aが値下がりしたときBが値上がりするなら、「負の相関がある」ことになる。株式Aと株式Bの値動きが独立でない場合はZの確率分布表中の確率の値が変わるので、平均値も標準偏差も独立を想定した場合とは異なる値になる。

問1.文中の空欄  ①  ~  ④  にあてはまる数を答えなさい。

問2.本文でのリスク、リターンの捉え方に沿って、次の箱ひげ図ア~エの中から「ハイリスク、ハイリターン」の株式⑤と「ローリスク、ローリターン」の株式⑥のものを選びなさい。ただし、横軸は収益を表し、右方向がプラス、左方向がマイナスである。

問3.何種類かの株式の値動きが独立でない(従属である)場合を考える。株式投資をする際に、リスクを小さくするために分散投資するなら、どのような銘柄の株を組み合わせたらよいか。本文の考え方に沿って、20字程度で書きなさい。



《解説・解答》
「分散投資することで実際にリスクが減る」ことを計算を通して理解する、高校2年生の文系の生徒たちにぴったりなとても良い問題だと、我ながら思っています。

問1. ① 4  ② 16  ③ 3  ④ 10
  ※ 定義に従って計算する。元の問題では標準偏差の意味を具体例つきで説明しています。

問2. ⑤   ⑥ 
  ※ 元の入試問題にはありませんでしたが、授業で扱った内容をトッテツケました。

問3. 値動きが「負の相関」になると予想される銘柄
  ※ 「負の相関」がポイントです。  主語「値動きが」をお忘れなく。

2019年4月15日月曜日

慶応SFC入試は数学もちょっと変わってる(1)

 慶応大学SFC(湘南藤沢キャンパス)には総合政策学部と環境情報学部があって、そこの入試の小論文が変わってるという認識はあったが、数学もちょっと変なのに気がついた。2004年度の問題を紹介しよう。



(2004年度 慶大・総合政策学部・入試「数学」より)

(1) 天使はつねに真実を述べ、悪魔はつねに嘘をつく。A,Bは悪魔か天使であることはわかっているが、どちらかはっきりしない。Aがこういった。「わたしが天使ならば、Bも天使です。」この二人の正体は    である。

  [選択肢]  1.A,Bともに天使     2.Aは天使、Bは悪魔
       3.Aは悪魔、Bは天使    4.A,Bともに悪魔

(2) 3人の女神が口論している。もっとも美しい女神はただ一人であるとする。
    アテナ    「もっとも美しいのはアフロディテではない」
    アフロディテ 「もっとも美しいのはヘラではない」
    ヘラ     「わたしがもっとも美しい」
  もっとも美しい女神だけが真実を述べている。それは    である。

  [選択肢] 1.アテナ  2.アフロディテ  3.ヘラ


(2004年度 慶大・環境情報学部・入試「数学」より)

(3) イニシャルがN,M,Tの3人がA,B,Cの椅子に座っている。
  かれらはつぎのように主張している。
    Aに座っている人の主張 「Bに座っている人はNです」
    Bに座っている人の主張 「Cに座っている人はNです」
    Cに座っている人の主張 「Aに座っている人はMです」
  少なくともNは真実を述べている。するとA,B,Cに座っている人の名前はそれぞれ    である。

  [選択肢]  1.N,M,T  2.N,T,M  3.M,N,T
       4.M,T,N  5.T,N,M  6.T,M,N

(4) 1,2,3番の3人が面接を受けている。
  このうちいつも真実を述べるのは1人だけで、他の2人は嘘つき(いつも嘘をつく)である。
    1番の発言  「2番の人は嘘つきです」
  この発言から、   番の人が嘘つきであることが確実にいえる。



 受験生にとってこの問題は、難しいんだろうか? それとも簡単なんだろうか? いや、難しいか簡単かというより、慣れているかいないかという問題なのかもしれないが。

 では、解説・解答といきましょう。
 まずは(2) と (3) をまとめて。どちらも 背理法 で攻めるのがよさそうです。

(2) アテナが最も美しい女神と 仮定 すると、アフロディテの発言が正しいことになって 矛盾 する。
   アフロディテが最も美しい女神と 仮定 すると、どの女神の発言も 矛盾しない
   ヘラが最も美しい女神と 仮定 すると、アフロディテの発言が正しいことになって 矛盾 する。
   以上から、もっとも美しい女神は アフロディテ ということになる。

(3) も同じように 背理法 で攻めると ・・・ (中略) ・・・ A,B,Cに座っているのはそれぞれ M,T,N とわかる。

(1) と (4) は説明しにくいので ・・・ (中略) ・・・ (1) の答えは で、(4) の答えは

慶応SFC入試は数学もちょっと変わってる(2)

 慶応大学SFC(湘南藤沢キャンパス)には総合政策学部と環境情報学部があって、そこの入試の小論文が変わってるという認識はあったが、数学もちょっと変なのに気がついた。2005年度の問題を紹介しよう。



問. 設問(ⅰ),(ⅱ)の最後の命題はその前にある複数の命題から導くことができるか?
  もしそうならば解答欄に 1 を、そうでないなら 0 を記入せよ。
(2005年度 慶大・総合政策学部・入試「数学」より)

(ⅰ) ① K君は非論理的だ。
    ② ワニを操れるものは軽んじられることはない。
    ③ 非論理的なものは軽んじられる。
    ④ K君はワニを操ることはできない。

(ⅱ) ① 12歳未満の子はみな寮生である。
    ② 勤勉な子はどの子も赤毛である。
    ③ 通いの子はどの子もギリシャ語を履修しない。
    ④ 12歳以上のどの子も勤勉でない。
    ⑤ 赤毛でない子はどの子もギリシャ語を履修しない。


問. 設問(ⅲ),(ⅳ)の最後の命題はその前にある複数の命題から導くことができるか?
  もしそうならば解答欄に 1 を、そうでないなら 0 を記入せよ。
(2005年度 慶大・環境情報学部・入試「数学」より)

(ⅲ) ① わたしの持ち物の中で、人形だけが陶器です。
    ② あなたから頂いたプレゼントはみな役に立ちます。
    ③ わたしの人形はどれも役に立ちません。
    ④ あなたから頂いたプレゼントの中で陶器でないものはありません。

(ⅳ) 皿Aにわたしの芋がもってある。
    ① わたしの芋で新しいもの以外にゆがいたものはありません。
    ② 皿Aにある芋はどれも食べられます。
    ③ わたしの芋で、ゆがいていないものは食べられません。
    ④ 皿Aにある芋はみな古い。



 一読して答えられる人っているんだろうか? よーく考えればなんとかなるかもしれないが、なんとも面倒くさい。

 この問題は集合のベン図で考えるのがよさそうです。
◇ 命題 「p ⇒ q」 が真 ⇔ P⊂Q
では、最初の問題の答えを示しましょう。

まず②の「ワニを操れるものは軽んじられることはない」の対偶を作ります。
対偶②' は「軽んじられる者はワニを操れない」で、これは②と同値です。
次に①,②',③を図示すると右のようになります。
この図から④が正しいことがわかります。

 次に2つ目。

③の対偶は ③'「ギリシャ語を履修しているのはみな寮生である」。
④の対偶は ④'「勤勉な子はみな12歳未満である」。
①と③'を図示すると下左図に、②と④'を図示すると下中図に、以上をあわせると下右図になります。
このとき赤毛の集合とギリシャ語履修の集合には包含関係は無いので、⑤を導くことは出来ません。


 続いて3つ目と4つ目。

3つ目の①~③をベン図に表すと下左図になります。そこから「あなたから頂いたプレゼントはどれも陶器ではありません」と言うなら正しいのですが、④「あなたから頂いたプレゼントの中で陶器でないものはありません」は間違いです。

4つ目の①~③をベン図に表すと下右図になります。そこから「皿Aにある芋はみな新しい」と言うなら正しいのですが、④「皿Aにある芋はみな古い」は間違いです。

損得気分曲線


 たとえば株を買ったとして、「実際の損得」と「気分的な損得感」は実は全然ズレているのである。右グラフにおいて、横軸が「実際の損得」で、縦軸が「気分的な損得感」で、原点が「買値」である。

 気分に全く影響されず氷のように冷静に判断するのであれば、「実際の損得」と「気分的な損得感」は一致するはずである。その場合、グラフは右図の 緑色の点線 のようになる。これがいわば 理論曲線(直線)である。
 しかし、お金がかかっていれば、人は無感情ではいられない。平均的かつ良心的な一般投資家の 損得気分曲線 は右図の 茶色の実線 のようになる。その特徴は、
  • 原点付近で傾きが急になる。
    つまり、買値からの少々の値動きに過度に反応する。
  • しかも、プラス側よりマイナス側の傾きの方が大きい。
    つまり、特に損することに対して極端に敏感である。
  • そこから さらにマイナス側では、傾きが緩やかになる。
    つまり、損がかさむと急にどうでもよくなってしまう。
  • プラス側では、気分曲線は常に理論曲線の上にある。
    つまり、得した場合は実際の得以上に得した気分になる。
要するに普通の人は、小さな損に対してだけ極端に悲観的で、それ以外は基本的に楽観的なのである。こんなんで儲かるわけがない。補足すると、
  • 原点付近で頻繁に売り買いするのが デイトレ である。この領域では実際の損得以上に気分が盛り上がるから、まさにゲーム感覚なのだろう。
  • グラフの左下でほぼ平らになった状態のことを、業界用語で 塩漬け という。「そのうちなんとかなるさ」という超楽観的な気分が支配する領域である。
  • グラフの右上では、儲け話 を大げさに語る人が現れる。雑誌などが取り上げることも多い領域なので、これに巻き込まれる人が後を絶たない。
だから、まともな感性の持ち主は株投機なんかをやっちゃいかんのだ。

芋と豆と栗

まず、傾向としていえることは、 が好きなのは 。特に、さつまいも。
また、これも傾向としていえることだが、 が好きなのは 。ナッツの類。
そして、競合するのが だ。 は芋と豆の中間にあるから、女も男も好きなんだ。

妻は  を買ってきて、ボクが食べないことを知ってるから、平気で見えるところに置いておく。
ボクは を買ってきて、妻に食べられる心配がないから、これ見よがしにドォーンと置いておく。
ところが を買ってきたときは、こそこそ隠すんだな。でも、見つかって食われちゃうことがしばしば。

この人類共通(?)の事象は、 と  の体の違いに由来しているのかしらん。
なんとかして  を  の魔の手から守る方法はないものか。

野生のリサイクル

 ライオンが獲物を捕えて、食い散らかす。その後、ハイエナが残り物をあさり、そのまま放置する。続いてネズミや虫がやってきて、取れるものだけ取って、去る。最後には微生物が獲物を分解する。誰もゴミ処理のことなど気にもせず、食い散らかして放置することで、自然の中でリサイクルされる。
 庭の落ち葉を放っておけば豊かな生態系になるだろうに、人はせっせと掃き集めて自治体のゴミ処理に出す。人は、カラスが生ゴミをあさることを断固として許さず、人糞を一刻も早く身辺から遠ざけることに精を出す。自然によってリサイクルされるのを極力避けて、科学と経済の力によるリサイクルを目指しているということか。
 人の社会では、一定の手続きを経ることで物を所有できる。勝手に自分の物にしたら、泥棒と呼ばれる。使用済みの物を廃棄する際にも所定の手続きが必要で、それをしないと不法投棄もしくは近所迷惑と呼ばれる。多くの物を所有すれば、多くのゴミが発生することは必然で、それをいかにリサイクルするかが課題になる。
 一方、野生の世界には、所有にも廃棄にもルールは無い。勝手に捕まえて、勝手に捨てる。そうすることで、野生のリサイクルが成立する。ライオンが丁寧にゴミ処理したら、ハイエナは困るだろうな。手続きを経なければ微生物が獲物を分解できないとしたら、みんな困っちゃうだろうな。

 このリサイクルのやり方を人間社会で実践するには何かしらの障害が発生するのかもしれないが、忘れちゃいけない観点のように思う。

世論調査は難しい(慶応大の入試問題より)

慶応大学商学部(2011)「論文テスト」より

<問> 以下の文章を読み、次の問1~問4に答えなさい。

 世間一般の意見や考え方を調査する世論調査は、我々にとって重要な情報を提供してくれる。調査をするうえで、すべての人々について調べることはできないため、無作為に選ばれた一部の人々への調査をしている。たとえば、内閣支持率も代表的世論調査の1つであろう。内閣支持率とは、有権者のうち内閣を支持している人々の割合である。もちろん有権者に対する全数調査は、コストと時間の両面から不可能であり、実際には1000人程度に聞き取り調査をしているようだ。このように、世論調査の重要性は明らかであるが、世論調査にもいくつかの問題点がある。
 たとえば、「過去1年間に大麻を吸ったことがありますか」という質問を、無作為に選ばれた1200人に聞いたところ、60人が「はい」と答えたとしよう。このとき、大麻を吸ったと答えた人は、全体の  ①  %となっている。しかし、(ア)この調査では、値を低めに推定している可能性がある。この問題を解決するには、「回答のランダム化」という調査手法を用いる手がある。調査員は回答者に、まずサイコロを振るようにお願いする(サイコロは、1から6の数字が書かれた、歪みがない正6面体とする)。また、回答者は、サイコロの結果を調査員に知らせないとする。もし6が出たら、回答者は次の質問には「はい」と必ず答える。それ以外の目が出たら、正直に「はい」か「いいえ」と答える。こんな当てにならない調査結果を、調査機関はどうやって利用するのだろう? 確率論を使うのだ!
 先ほどのように、最初にサイコロを振ってから答えるように指示された1200人が、「過去1年間に大麻を吸ったことがありますか」という質問に回答したとしよう。そのうち、380人が「はい」と答え、残りが「いいえ」と答えたとする。このとき、平均すると6人中  ②  人が6の目を出して「はい」と答えるだろう。それを調査結果から除くと、有効な回答者は  ③  人であり、そのうち  ④  人が「はい」と答えたと考えられる。つまり、回答者のうち  ⑤  %が大麻を吸っていたと推定される。回答のランダム化を、一般的な表記で考えてみよう。回答者数をN人、「はい」と答えた人をM人とする。そうすると、サイコロを振って6の目が出て「はい」と答えた人々を除くと、有効な回答数のうち
      ⑥  ×M/N-  ⑦ 
の割合だけ大麻を吸っていたと言える。このように、(イ)回答のランダム化を行えば、通常の調査結果の問題を解決することができるのだ
また結果自体は完全に有効であっても混乱が起きることがある。たとえば、2004年のアメリカ大統領選の出口調査(投票を終えたばかりの有権者に、誰に投票したかを尋ねる調査)では、(ウ)投票にあたって最も重要な争点について聞かれた有権者が選んだ回答は、「倫理的価値観」が1番多かった。最終的に勝ちを収めたジョージ・W・ブッシュの批判者は、これはブッシュの支持者が、みんな過激なキリスト教徒の保守派である証拠だと主張した。一方、保守派は、アメリカの世論が信心深く敬虔な視点へと根本的にシフトしていることを、この調査結果は示していると主張した。ところが、よく調べてみると、「倫理的価値観」を選んだ回答者は22%にとどまることがわかった。そのうえ、「倫理的価値観」という言葉の捉え方は人それぞれだったのに対して、選択肢として同時に示されていた他の6項目(「イラク」、「テロ」、「医療」など)は、もっと具体的だった。そして、実は「テロ」は投票者の19%、「イラク」は投票者の15%に選ばれており、合わせると34%に達した。だから、これら2つの争点が1つのカテゴリー(たとえば、「安全保障」とか「外交政策」)に設定されていれば、それが投票者の最大の関心事という結論になっていたかもしれない。これはずいぶん違った結論だし、おそらくこのほうが現実に近かったのだろう。

問1.  ①  ~  ⑤  に最も適切な整数を、 ⑥  ~  ⑦  に最も適切な分数を入れなさい。

問2.(ア)この調査では、値を低めに推定している可能性がある とあるが、過小評価の問題はなぜ起きるのか。20字以内で答えなさい。

問3.(イ)回答のランダム化を行えば、通常の調査結果の問題を解決することができるのだ とあるが、回答のランダム化は、どういう意味で通常の調査方法の問題を解決できるのか。50字以内で答えなさい。

問4.(ウ)投票にあたって最も重要な争点について聞かれた有権者が選んだ回答は、「倫理的価値観」が1番多かった とあるが、この出口調査の問題点は何か。20字以内で答えなさい。



《解答例》
問1.① 5  ② 1  ③ 1000  ④ 180  ⑤ 18
   ⑥ 6/5  ⑦ 1/5

問2.回答者が正直に答えるとは限らないから。(19字)

問3.「はい」と回答した理由が他の人にわからないので、正直な回答を得られることが期待できる。 (43字)

問4.選択肢の一部に具体性がなくて不適切。(18字)

※ 類題は こちら をどうぞ。

ミカンを投げる

 ミカンをひと房ポォーンと上に投げて、落ちてきたところをお口でパクッ。「やめさない!」by 妻。・・・ちゃんとキャッチしたのにぃ。。。
 食べ終わったミカンの皮をフワッと投げて、ゴミ箱にストン。「いいかげんにしなさい!」by 妻。・・・しっかりゴミ箱に入ったのにぃ。。。
 「もー、子供みたいなことして・・・ってゆーか今どき、子供だってそんなお行儀の悪いことしないわよ!」。妻に怒られました。
 そのとき、ハタと気がつきました。「そっか、今どきの子供はこれをやらないからダメなんだ」

 ミカンを上に投げるときの柔らかさ、微妙な力加減。ミカンが手を離れる感触に合わせて、すばやく動く頭。これらがうまく連動しないと、ミカンをキャッチできない。
 ミカンの皮をゴミ箱に投げ入れるときは、方向よりも力加減がポイント。ゴミ箱に入れるのはあんがい難しい。放物線の軌道がゴミ箱のすぐ上を通過し、その位置で速度が大きく引力方向に向いていることが条件だ。
 子供をスポーツ・クラブに入れても、スクールに通わせても、この柔らかさ、微妙な力加減は身につかない。それは日常生活の中で、あるいは遊びの中でこそ身につくものなのだ。
 だから、妻のように「行儀が悪いから、やめなさい!」と言うのは間違っている、たぶん。むしろ子供にこれを奨励し、ときには大人がやって見せることが必要なんじゃなかろうか。

価値観リーグ(NHK「テストの花道」より)

 NHK・Eテレで以前放送していたの「テストの花道」で紹介された「価値観リーグ」。次の5つの価値観、
○ お金をたくさん稼ぎたい 
○ 人や社会に貢献したい 
○ 自分の力や個性を生かしたい 
○ 偉くなって人からすごい言われたい 
○ 仕事以外にも自分の時間を大切にしたい 
をそれぞれ比べて、自分が何を大切にしているかをはっきりさせるツール。


 中高生が「やりたい仕事を見つける」ためのツールということだが、すでに仕事をしている大人にも使えるツールだと思う。何年かおきにやってみると良い。私もやってみた。その結果は、

社会的地位 > 社会貢献 > 自分の時間 > 得意分野 > お金

となった。大人がやると、すでに実現しているものの順位は低く、実現していないものの順位が高くなるのかもしれないが。

泣くな、理系

 高校3年生理系の数学の授業で僕が大学入試の過去問の解説をしていて、黒板に計算式を書いている途中に「」と書いた。すごく複雑で面倒な計算だったから。実際僕は「この計算やりたくない」と思ったし、「この問題に正解した受験生はいなかったんじゃないか」、「こんな計算できなくても構わないだろ!」とも思ったから。
 そうしたら、ある生徒がこう言った。
ここで泣かないのが理系だ。
と。「理系だったら、複雑な計算・面倒な計算にくじけてはいけない」というわけだ。理系の心意気である。別の生徒が続いた。
泣くな、理系。
なんだか僕が怒られているような、励まされているような、そんな雰囲気になってきた。そうこうするうちに合唱が起きた。
泣くな、理系。
彼らの覚悟であると同時に、お互いに「がんばろうな」という意思表示でもあるのだろう。要するに計算のあまりの面倒くささに、みんな泣きそうになっていたのかもしれない。そう、僕だけじゃなかったのだ。
 なんだか妙な空気になってきたが、今日からクラスの合言葉になるのかもしれない。そもそも僕が黒板に「」と書いたのは、多少おちゃらけてのことだ。いつのもノリだ。生徒たちがそれに調子を合わせてくれたという面もあるのだろう。それにしても、頼もしい限りである。